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[WATARASE Art Project 2007/群馬・栃木]
WATARASE Art Project 2007
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1.
足尾精錬所
2.
渡良瀬社宅
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3.
佐藤亜弥子「社宅にて / 就労者の眠り」
4.
平川恒太「とても小さな声」
4
足尾−−銅山の残照、その中の“生”の息づかい
神戸駅から先は、美しい景観の渓谷の中を列車は進む。そして県境をまたいで栃木県の旧足尾町(現日光市足尾町)に入ってしばらく進むと、物物しい鉱山施設が目に付くようになる。
足尾は、江戸時代に幕府によって銅の採掘が本格的に開始されて以来、足尾銅山を背景とした鉱山町として栄えてきたが、1973年(昭和48)に銅山が閉山となってからは、かつての坑道を活用した足尾銅山観光などによる観光の街として再生を図っている。
一方、足尾銅山といえば、公害問題についてふれなければならない。
足尾では、精錬所から排出される亜硫酸ガスによって近隣の山の木々が枯れるなどして荒廃していった。農業や林業で生計を立てていた周辺の村々は次々と廃村に追い込まれるとともに、治水力の低下によって渡良瀬川はたびたび氾濫し、下流域の農地にもカドミウム汚染などの深刻な被害をもたらした。
これらの鉱毒被害は今なお完全には解決していない。特に亜硫酸ガスによって荒廃した山々は今なお赤茶けた地肌をさらしており、地道な植林活動によって徐々に緑を回復しつつあるとはいえ、元の緑豊かな山になるにはあと100年はかかるとも言われている。
足尾では、足尾駅と通洞駅の間に広がる旧足尾町の中心部に展示会場が点在していたが、まずは足尾駅の北東に位置する渡良瀬社宅から見てみよう。
足尾銅山は明治〜大正期に最盛期を迎え、銅山の周囲にはいくつもの鉱山住宅が作られた。渡良瀬社宅もそのうちのひとつである。
銅山が閉山となり、多くの人が足尾を離れていった。各地の鉱山住宅も次々と廃屋となったり取り壊されたりしていったが、渡良瀬社宅には、一部とはいえ今なお人々が生活している。
今回は、渡良瀬社宅の中の数棟の空き家の中に作品が展示された。
この中では、同じ“眠り”をテーマとしながら一つの家屋の中に対照的な雰囲気のインスタレーションの展示を行った佐藤亜弥子と赤坂有芽、落ち葉などを使って繊細なインスタレーションをつくりだした平川恒太、浅葱色の内壁の空き家の中に都市を描いた絵画や首都圏近郊の団地の写真を展示した鎭目紋子、巨大なグローブが内なる暴力性を感じさせるコバヤシ、穴だらけの空き家の中に銅の採掘で穴だらけになった足尾の山を表現した狩野仁美など、見ごたえのある展示が多く見られた。
また、古河鉱業(現、古河機械金属)の迎賓館として現在も活用されている足尾掛水倶楽部や足尾の市街地内にも作品が展示され、鉱山設備として市街地に張り巡らされた水路の水の流れを軽やかに現前化させた鎭目紋子や商店街の空き店舗の中にヒトの化石を浮かび上がらせた町井理恵などの作品が目を引いた。
また、足尾での展示といえば、渡良瀬 Camping Trainに触れないわけにはいかない。
これは、足尾駅に放置されている列車の廃車両の内部を改装して簡易宿泊所として活用したものだが、列車のロングシートを横に2つ並べた上に布団を敷き、上に蚊帳を吊ったベッドは、事前に考えていたよりも寝心地は快適であった。
車両の脇の元貨物用プラットフォームにはカフェが設けられ、宿泊者や作家との交流の場となっていた。
実際にここで一夜を過ごしてみると、夏だというのに足尾の夜はひんやりと涼しく、空気もどこか違う。東京などの平野部とは別世界なのだと感じる。
こうしたことは、実際に泊まってみないとわからない、足尾という土地のリアル(現実)なのだ。
足尾というと、鉱毒事件や銅山閉山後の過疎といったネガティブな印象で語られがちだが、今回の足尾での展示を観ると、そうした面よりもむしろ日常の営みや生活の息づかいといった面が印象に残った。
足尾は“死んだ街”ではない。銅山が閉山した現在も、多くの魅力をたたえて“生きて”いる。
WAPにおけるそれぞれの作家の展示は、そうした足尾の現在の姿やその魅力に気づかせてくれるのだ。
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5.6.
鎭目紋子「空箱に水色」展示風景
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鎭目紋子「空耳に水音」
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コバヤシ「THE GLOBE」
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狩野仁美「red garden」れ
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町井理恵「湖の底。目覚め。透明な体。」
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渡良瀬 Camping Train 内部
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渡良瀬 Camping Train 外観
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北田明茂「DROP performance p.j」で使用されたリュックサック
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北田明茂「DROP performance p.j」ドキュメント映像
その他の展示など
その他、本宿駅や沢入駅に作品が展示された他、各種イベントやパフォーマンスが行われた。その中でも、北田明茂のパフォーマンス「DROP performance p.j」について採り上げてみたい。
これは、花輪付近の渡良瀬川の河原から石を採取し、わたらせ渓谷鐵道を使って川をさかのぼり、仁科らの作品が展示されている神戸の石材工場や、鉱毒被害で廃村となった旧松木村といった上流域に石を戻すというものである。
渡良瀬川は、花輪付近では草が生い茂る河原の中を緩やかに流れるが、神戸付近からは河原に石が目につくようになり、旧足尾町にさしかかるあたりでは岩の間を川が流れる渓流、そして、さらに上流の旧松木村あたりでは、鉱毒被害によって今なお草木がほとんど生えない荒廃した大地が広がっている。
北田の試みは、そうした川の上流と下流はつながっているのだ、という当たり前のようで忘れがちな現実を僕たちに思い出させてくれるとともに、川やそれとともに生きる人々の営みについて考えさせてくれる。
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