topreviews[WATARASE Art Project 2007/群馬・栃木]
WATARASE Art Project 2007


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1.今泉嘉一郎邸 外観
2.旧花輪小学校 外観
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3.角貝絵美「The World」
花輪−−秘めた営みに重ねる想い

大間々の街を抜けると、車窓はしだいに緑が増し、渡良瀬川もゆったりとした流れを見せ始める。そして列車は花輪という小さな街にたどり着く。
花輪は、大間々同様に銅街道の宿場町として発展し、かつては勢多郡東村(現みどり市東町)の役場が置かれた。その街並みは併走する国道122号線から外れていることもあって比較的静かだが、いかにも宿場町といったたたずまいを見せている。
ここでは、日本鋼管株式会社(現JFEホールディングス)の設立に尽力したという今泉嘉一郎の旧宅、登録有形文化財に指定されている旧花輪小学校の木造校舎を中心に作品が展示された。

シンプルな中にも日本家屋らしい美意識を感じさせる旧今泉嘉一郎邸では、角貝絵美によるインスタレーションや持田加奈子の日本画が展示された。
角貝は、戸を締め切って暗くした和室の入り口の畳に足の先の写真を設置した。暗闇の中、ちょうど足先の写真が見えるところだけ光がさしこむようになっていて人の気配のようなものを感じさせる、日本家屋の特性を活かした展示になっている。

また、2階に展示した持田の作品は、日本画の様式を活かして今を生きる人々をユーモラスに描いている。そうした作品を歴史を刻んだ古い日本家屋の中で見るというシチュエーションが興味深く感じられた。

一方、1931年(昭和6)に建てられた旧花輪小学校の木造校舎は、2001年(平成13)に廃校となった後も地元の人々の尽力によって旧花輪小学校記念館として活用されている。
ここでは、玉木直子や門眞妙の作品が印象に残った。
玉木の作品は、校旗をイメージした図柄と草花や衣服とをフロッタージュの技法により重ね合わせたものである。校旗の図柄は実際の花輪小学校の校旗ではなくオリジナルということだが、中央に桜の花をデザインしたそれは花輪小学校のそれと似通っており、そこに草花やレースの柄などが重ねられている様は、この花輪という土地に心を重ねていこうとする玉木自身の姿を浮かび上がらせる。
また門眞は、2階の教室の窓のところに薄い布地に描いたドローイングを吊るした。
布地の向こう側には外の景色が透けて見え、門眞によって描かれた花輪の風景と重なることで、ここ花輪での自然の営みがより豊かに感じられる。そしてそれを教室の中から見ることで、この小学校が見てきた花輪の歴史が浮かび上がってくるように感じられるのだ。
そんな中、向かって一番右側に展示されたドローイングには東京の景色が描かれている。そのドローイングには、玉木と同様に東京からやってきて花輪に心を重ねていく門眞自身の姿が表されていたように思う。

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4.持田加奈子作品 展示風景
5.門眞妙「山のはなし」(一部)

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6.門眞妙「山のはなし」展示風景

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7.玉木直子 < flag / symbol >
花輪という土地は足尾や富弘美術館のある神戸(ごうど)の陰に隠れ、目立たないかもしれない。
しかし、花輪にも豊かな自然やそこに生きる人々の営みがあり、そしてそこにこめられた想いの蓄積が横たわっている。
そして、東京からやってきた作家たちの想いが重なることで、そうした営みがかけがえのないものなのだということに気づかされるのだ。

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