topreviews[週末芸術 Vol.03/栃木]
週末芸術 Vol.03

牛腸まり子「すきま の すきま」
 
牛腸まり子作品 展示風景
 
牛腸まり子「つづく、つづく」
 
 
牛腸まり子「うつるせかい」
 
 
牛腸まり子「きりとるせん」
 
 
牛腸まり子作品 展示風景
5/12〜13 牛腸まり子

第1週目は、牛腸まり子による「そとの せかいの きりとりかた」と題して、“風景画”を中心とした展示がなされた。
大学では油彩を学んだ牛腸であるが、彼女の作品はいわゆる油彩とは大きく異なる。木枠にベースとなる布地を張った上に、部分的に布地やビーズ、糸などを縫いつけたりして作品を制作する。
布は、フェルトやタオル地などの厚手のものが多用されているとともに、布地や糸の縫い目は必然的にそこに影を生み、近くで観るとモノとしての質感を強く感じさせる。さらに牛腸の作品は木枠の脇にもビーズや毛糸玉などを縫い付けたりしており、ことさらにモノであることを主張しているかのように見える。
そうした作品が会場であるHAT cafeの壁面に窓になぞらえて展示されているのだが、HAT cafeはその大半をガラスで覆われた空間であり、そこに窓になぞらえた作品が設置されている様を観ていると何だか奇妙な感覚にとらわれる。
通常の壁面であれば壁面の向こう側は見えず、窓の部分を通してのみ外界の景色を見ることができるが、HAT cafeの一面ガラス張りの中では、壁からは外界の風景を見渡すことができる反面、窓に見立てた牛腸の作品のところでは外界の風景がさえぎられ、牛腸が布や糸などで表現する“風景”がそれにとってかわる。
こうした2つの景色をあわせて観るとき、HAT cafeの内部に外界とは異なる別の世界が徐々に浮かび上がってくるように感じる。
また、牛腸の作品は鑑賞者が作品に直に触れることをあらかじめ想定しているのだが、布地のやわらかな感触や、糸やビーズなどとあいまってつくりだす凹凸を指先で感じるうちに、浮かび上がる世界も様相を変えていく。
この世界は牛腸自身の世界であるとともに、観ている僕たち自身の内面の世界でもある。牛腸がつくりだすこの“窓”は、外にではなく、牛腸自身の、そして僕たち自身の内に開かれているのだ。そしてそれは、ガラスで覆われた開放的な空間だからこそ、そのことをより一層強く感じさせてくれる。

一方、ガラス張りでない壁面やHAT cafeの中央部には、「きりとるせん」や「すきま の すきま」など、ベニヤ板も組み合わせた作品が展示されている。
これらの作品は、出窓やテーブルなど本来は立体であるもの、あるいは椅子の影といった非物質的なものを、ベニヤ板を用いて平面のモノとして表現しているのだが、これらの作品を観ていると、日常の生活では明確に区別される平面と立体、物質と非物質の境界があいまいになっていくように感じる。そしてそんな世界に身を置いていることがだんだん心地よくなってくる。
僕たちが生きているこの世界は、一見強固に見えるものもうつろい変化していく。牛腸の作品は、そうした側面をやわらかに心地よく感じさせてくれるのだ。

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