展覧会会期中は、年配者から家族連れ、カップルと様々な観覧者の訪問があった。インスタレーションとビデオ作品の展示であったが、私がギャラリーにいる際は、たいていの人が作品の印象、感想を口にし、日本とスウェーデンの文化について話をするなど、作品を介してコミュニケーションが自然に生まれた。ボラス市には、美術館とテキスタイルの学校、テキスタイルの博物館ほか、コマーシャルギャラリーも在る。その中で、オルガーデンは重要な役割を果たしているようで、オルガーデンファンとも呼べそうなリピーターも多く来廊していた。
また、展覧会中に予期せず作品が売れた。インスタレーションの作品だった為、スタッフも予想せず全く金額も決めずにいたので、慌てたがコレクターと直接話も出来、安心して作品を渡す事が出来た。オルガーデンでは、毎年三人のアーティストを選出し、彼らの版画を50エディションセットにして3〜4万円で販売している。それが重要な活動資金になっている。「版画」が日本で言うところの「工芸」的な存在で、歴史も長く、愛好者も多いというのも、毎年それらを完売している理由であろうが、いくつかのホームパーティーに招かれた際、壁中に飾られたコレクションとそれらの由来やコレクター自らの考えを話してくださる様子を見て、アートと生活が近くにある事を実感した。
もちろん、アートマーケットとしては、オルガーデンのあるボラス市はエキサイティングな場所ではないかもしれないが、社会制度や、また生活のスタイル(たいていの商店は夕方5時には閉店し、年に4週間以上のバカンスをとるのがほぼ義務。)が、「いかに余暇を楽しみ、それらに投資するか」という雰囲気を作り、自然とアート愛好者はアートと身近な環境を作っているように思えた。
オルガーデンの環境は時間も人もゆったりしており、それでこそ成立しているシステムなのだろう。しかし、その基本にあるのは特別なシステムではない。関わる人々それぞれが、オルガーデンという“場所”を大切に思い、お互いの活動も尊重しあう。その気持ちが、うまく作用し循環している。ボラス市も、オルガーデンも、決してアートのセンターとは呼べないであろうが、「アートを味わう」現場として、オルガーデンの環境は、そこに関わる人たちを含めて「成熟」していると感じた。
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