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稲垣智子インタビュー


《Pearls》2010 「Tomoko Inagaki and Svenja Maass」展(Kunstverein Harburger Bahnhof、ハンブルグ)での展示風景

たったいまのアートシーン
そしてこれから


藤田
たったいまのアートシーンはどう見えますか?

稲垣
東京に限らず、ドイツでも大阪でも、みんな「良い展示をやってない」って言ってますよね。
いま、停滞時期なのかもしれません。
だからこのときに、よく考え、良い作品をつくりたい、と私は思っています。

藤田
私からすると、この10年間にコマーシャルギャラリーが増えましたよね。
コマーシャルギャラリーは、作家を抱えて取り扱いアーティストにする、というやりかたなので、コマーシャルギャラリーが増えるとアーティストも増える、という図式になります。

稲垣
昔から作家って多かったのではないかしら?

藤田
そうかもしれません。
10年前、銀座の貸画廊で毎週違う作家が展示する、という状況を思い出してみると、当時も作家も多かったという意味だと思います。
ただ貸画廊は場所を貸して、宣伝とかは作家自身でする、というスタンスだったから、観客もちゃんと見て、面白い・面白くないの選別をしていたはずだし、特徴のない展覧会は目立たない、で済まされていたはず。
ところがコマーシャルギャラリーは、抱えた作家の宣伝をギャラリーがしていて、作品の内容や展覧会のクオリティはともかく、作家みんながヒーロー・ヒロインになろうとしているように見えるんですね。
つまりギャラリーの宣伝や美術館で取り上げられたという多数決の理論で、作家や作品のよしあしが決められている。
10年前と作家の数は変わらないのかもしれないし、私がライターという広報のような仕事をしているから目につくのかもしれない。
ギャラリーやアーティストの宣伝過多が目にあまるし、戦略がないと作家は生きていけないのか?と思うのです。


《Mr.C》2010 C-type print



稲垣
難しいですよね。

藤田
結局、いまの東京で、稲垣さんみたいなコマーシャルギャラリーに所属しない人が展示する場所がないし、そういう人が面白くても見せる場がない。
だから面白い展示がないよね、という状況を生み出している、と私は思うのです。

稲垣
世界的にそうじゃないですか。
少し前の作品のほうが、インパクトあるように感じたりしますしね。

藤田
ヒーロー・ヒロインやアイドルといった存在も、もうないですよね。
昔はみんな光GENJIが好きだったけど、いまみんなが嵐を好きなわけではない、といったように。

稲垣
面白いことをやっている人は、いろいろいるはず。
だけど「経済的ではない=ピックアップされない」という状況になっているんだと思います。
いまコマーシャルすぎる、お金になることを考えすぎ、なのではないでしょうか。
だから埋もれている人たちを発掘する、見せるということが、必要なのかもしれませんね。

藤田
あと「美術手帖」6月号の特集と、「アートコレクター」6月号の特集が、同じ「新人紹介」なのですが、あまりにもカブってない!それらに載っているアーティスト以外にも作家はいるし、鑑賞者やキュレーターの見る目がますます問われているんだと私は思うんです。
みんながみんな、自己アピールがうまいわけではないから、面白い作家でも埋もれていく可能性はありますよね。
そういった世の中で、これからの稲垣さんはどうなっていくのでしょうか。

稲垣
分からないですね(笑)。
どこの国でも、いまの若い人はモノをほしがらないし、お金もない。
そういうときに作品を買うか、というと、買われるような作品、モノとしての作品をつくるのではなく、違う方法を考えなくてはならない、と思っています。

藤田
そうですね、いま、時代のちょうど変わり目、という気がします。
また5年後にインタビューをすることができることを楽しみにしています。
今日はどうもありがとうございました。

 
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