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美術散歩

ヴェネチア・ビエンナーレを見て

TEXT 菅原義之

    国際企画展
 旧イタリア館は見応えがあった。
ルイズ・ブルジョア(1911〜)、ソル・ルイット(1928〜2007)、ゲルハルト・リヒター(1932〜)、ロバート・ライマン(1930〜)、ジグマー・ポルケ(1941〜)など世界の代表的アーティストたち。その他レイモンド・ペティボン(1957〜)、チェンゼン(1955〜2000)、束芋(1975〜)、ソフィー・カル(1953〜)、ジェニー・ホルツァー(1950〜)、ブルース・ナウマン(1941〜)、加藤泉(1969〜)など。
展示作品とは別にゲオルク・バゼリッツ(1938〜)の大きな油彩画5〜6点を見ることができた。


ゲルハルト・リヒター 

一度にまとめてこれらの作品を見られたのはすごい。まさに興奮の一瞬だった。さすがヴェネチア・ビエンナーレならではと痛感。

 いくつか印象に残った作品を記すと、
 ソル・ルイットは大きな平面作品。濃い鉛筆だけで制作しているのだろう。中央部を薄く
周辺部に行くにつれ濃くなっていく。中心部が雲の中のサンライズのように「ボーっと」白く光っているかのよう。単純に思えるが素晴しい。大作であり、不思議な魅力を感じた。

 ゲルハルト・リヒターは抽象絵画である。彼の作品はそこに「何か」が隠されているように思えてならない。具象的な何かを描き、その表面を擦り、塗り込めているように思える。奥行きを感ずる。一度に5〜6点もの大きな絵画作品が見られ、満足感そのものだった。

加藤泉

 束芋の映像作品。マンション?断面の映像が出現する。何も置かれていないいくつもの部屋。各部屋に一つひとつ家具が置かれていく。あっという間に各部屋が家具でうめられ完成する。そこに急に「蛸」が窓から出入りする、人の手が出て取り押さえる。束芋らしい。色彩もきれいだった。何人もの外人が見ていた。

 加藤泉の作品。一見変わった絵画作品である。奈良美智ではないが、独特の幼児表現に特徴がある。男の子と女の子を描き分け、強めの色彩が映える。変わった幼児表現と独特の色彩が魅力的。

 
 
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1.藤本由起夫
2.チャールス・ゲインズ
3.エミリー・プリンス
4.エル・アナツィ
5.イリヤ&エミリア・カバコフ
6.ウルス・フィッシャー、ウーゴ・ロンディノーネ
 アルセナーレにも多くの作品が展示されていた。
 チャールス・ゲインズ(1944)、エミリー・プリンス(1981)、リヤス・コム(1971)、クリスタイン・ヒル(1968)、エル・アナツィ(1944)、藤本由起夫(1950)、イリヤ&エミリア・カバコフ(1933,1945)などの作品が目立った。
 藤本由起夫の作品3点の展示。1点は藤本の代表作。左右1本ずつの長い筒の中央部の椅子に座って両方の筒から発する音を聞く作品、“ボーン”と発する音源のない音。次は回転するレコード上に針の変わりに刷毛を使い、レコードと刷毛が擦れるため発する奇妙な音。もう1点はゴム?で出来た溝のない12枚のレコードの壁面展示、ラベルはビートルズの曲、音が出ないレコード展示から推測される観念的な音。以上3点の展示から《音》を題材にしたコンセプチュアル・アート作品の典型を見るようだった。コスースのシャベルや椅子の辞書、写真、実物の3点を展示した作品が思い出された。藤本はこれを意識しているのかもしれない。地味な作品だが、発想が抜群だった。

 チャールス・ゲインズは木製のビル群を制作、その上を飛行機が飛んでいる作品。やがて時間がたつとその飛行機が墜落する。9・11を連想させる。墜落する瞬間を多くの観客が写真撮影しているのが印象に残った。

 エミリー・プリンスはイラクやアフガニスタン戦争で亡くなった米軍兵士の小さな肖像画を出身州別に貼付しアメリカ合衆国の巨大な地図を制作。イラク戦争の犠牲を直接的でなく心に響く形で表現。

 エル・アナツィ、いろいろな種類の細かい金属片を針金でつなげて制作。金属片でできた巨大なタピストリー作品である。大きさと質感とですごい迫力を感じた。

 イリヤ&エミリア・カバコフの作品。チベット仏教の理想郷を8つの塔で表現しているそうである。9・11とかイラク戦争関連作品が多い中で宗教的な荘厳な感じ。心が落ち着き、安らぐ作品でもあった。

 以上のほかにも多くの作品があった。特にアルセナーレでは、9・11やイラク、アフガン戦争を直接、間接、題材にしたと思われる作品が多かった。戦争の場面、悲惨な場面は、あまり直接的表現だと、その部分がクローズアップされ生々しすぎて見るに忍びない。おぞましさが先にたち思考にひろがりを感じさせない。ここは報道写真とは異なり美術作品である。上記チャールス・ゲインズやエミリー・プリンスの作品などは、表現が直接的でなく暗示的でそれだけ心に響く。いかに平和が大切か、我々はいかに平和を希求すべきかなど思考にひろがりを感じさせる。政治性、社会性のある作品は好まないが、どうせ見るならこのタイプの作品を見たいものである。
両者の違いはピカソの《ゲルニカ》と丸木位里,俊夫妻の《原爆の図》の違いのように思えてならない。この種の作品表現の難しいところではないだろうか。

 展示作品を振り返ってみると、
○現代の厳しい世界情勢を反映してだろう、全体に政治に関係する問題(戦争、テロなど)を扱った作品が多かった(主に国際企画展、アルセナーレ)。
○絵画の復活が現れているのだろうか、思いのほか平面作品が多いように思われた。
○現代美術展にしてはかなり年配の有名なアーティストが多く参加していた(国際企画展、旧イタリア館)。
この3点が目立ったように思う。

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