topcolumns[美術散歩]
美術散歩

ヴェネチア・ビエンナーレを見て

TEXT 菅原義之

     9月下旬から10月上旬にかけて第52回ヴェネチア・ビエンナーレを見た。このビエンナーレは伝統ある現代美術の祭典である。大きく2つに分かれ、一つは国別展示、もう一つは国際企画展となっている。国別展示は主としてジャルディーニ会場、あとは市内各所。国際企画展はジャルディーニ会場内の旧イタリア館内とアルセナーレ会場で行われていた。あまりにも広範囲にわたり限られた日程では各国館全ては見られなかった。


岡部昌生


国別展示
 日本館、岡部昌生(1942〜)の作品。フロッタージュ(注1)が部屋一面に整然と展示され、部屋中央にはフロッタージュした宇品駅プラットホームの一部が置かれていた。この石をフロッタージュしたのだとわかる。中央部の石とぐるりフロッタージュ作品とはさすがに迫力があった。予想を上回る作品だと思えた。フロッタージュ作品の下に小さく《1894,1945,2007》と記載されていた。これは日清戦争(1894〜95)、第二次世界大戦終了(1945)、当作品制作年の記載だろう。日清戦争時宇品港から多くの日本兵が海を渡った。第二次世界大戦で廣島に原爆が投下され廣島の宇品もその被害にあった。加害者として、また被害者としての思いを込めてこの石を一つずつ丹念にフロタージュしたものだ。心のこもった作品であり、平和を希求する叫びがかすかに読み取れた。しかしかすかに響くだけだったように思う。日清戦争はあまりにも遠すぎた。国際舞台では理解し得るだろうか。ふとこんな思いが過ぎった。
(注1) 木(の板)、石、硬貨など、表面がでこぼこした物の上に紙を置き、例えば、鉛筆でこすると、その表面のでこぼこが模様となって、紙に写し取られる。このような技法およびこれにより制作された作品をフロッタージュと呼ぶ。(フリー百科事典ウィキペディアによる)


イザ・ゲンツケン


 ドイツ館はイザ・ゲンツケン(1948〜)である。スーツケースのインスタレーション、派手やかな仮面の展示、宇宙服のアストロノマーなどいろいろなタイプの作品が展示されていた。タイトルは《オイル》。いずれもオイルに関係しているということだろう。これらは直接間接オイルから製作される。ところが世界ではオイルが原因となって問題が発生している。国際的にオイルのもたらす問題の根深さを指摘しているかのよう。解決すべき重要課題として述べていたのではないか。タイトルの選択と内容がいかにも現況にフィットし、作品の表現する間口の広さに感心した。重要問題を直接的でなくサラッと流すところはさすが、痛快で面白かった。いろいろなタイプの作品を通して誰にでも理解しやすく物語っているのも親しみやすかった。

 

モニカ・ソスノヴスカ


 ポーランド館。モニカ・ソスノヴスカ(1972〜)の作品。入ると異様な作品の展示である。単なる鉄骨の構築物。いたるところにゆがみが見える。まともではない。心のすさみ、ゆがみ、悲惨さを世に訴えようとしているのか。過去のポーランドの状況を物語っているかのようでもある。ドイツと旧ソ連の間に位置し、いやがおうにも戦争に巻き込まれ、戦後は長い間ソ連の圧制下にあった。見た瞬間ポーランドの国情がそのまま作品に表現されているかのように感じた。単純に思えるが背後にある忍耐強さ、力強さがよく伝わった。迫力ある作品だった。

 そのほかにもフランス館のソフィー・カル(1953〜)、自分に届いた差出人不明の「別れのメール」を多くの自分の女性の友人に送付しその反応を展示した作品。彼女らしい発想。言葉の障害がなければもっとよく見るんだったが。

 アルセナーレ会場にあるイタリア館。ジュゼッペ・ペノーネ(1947〜)、大木の幹をそのまま革でくるんだ作品である。大木が異様に見える。ペノーネといえばアルテポーベラ(注2)を思い出す。木を加工しないでそのまま用いて作品を制作する。ペノーネが大木を革でくるむ?あれっ!と思ったが、これこそイタリアらしい発想かもしれない。
(注2)「貧しい芸術」という原義をもつ戦後イタリアの芸術運動。(現代美術用語集から一部)

 サン・スタエ教会で開催されたスイス館(その2)。ここはカナル・グランデ(大運河)をヴァポレットのS.Staeで降りるとそのまん前にある。ウルス・フィッシャー(1973〜)とウーゴ・ロンディノーネ(1963〜)の作品、コラボレーションが見事だった。

| 1 | 2 | 次のページへ


 
   
著者プロフィールや、近況など。

菅原義之

1934年生、生命保険会社勤務、退職後埼玉県立近代美術館にてボランティア活動としてサポーター(常設展示室作品ガイド)を行う。

ウエブサイト ART.WALKING

・アートに入った理由
リトグラフ購入が契機、その後現代美術にも関心を持つ。

・好きな作家5人ほど
作品が好きというより、興味ある作家。
クールベ、マネ、セザンヌ、ピカソ、デュシャン、ポロック、ウォーホルなど。

 

 

topnewsreviewscolumnspeoplespecialarchivewhat's PEELERwritersnewslettermail

Copyright (C) PEELER. All Rights Reserved.