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ベルリンアート便り
   
  「ラジオテスラ」風景。ラジオ放送を聴いているところ


「意欲的な人が集まり、密度の濃いものとなります」


Q.ラジオテスラというプログラムは、ラジオというメディアをテーマにしたレクチャーシリーズなんですね。

A.そうです。ラジオは不特定多数の受け手を対象に情報を発信するものですが、このラジオテスラは、放送番組ではなく、毎週水曜日に行われるトークなのです。ここでは、忘れ去られてしまっているメディアとしてのラジオの芸術的で歴史的な側面について探り、ラジオの過去/現在/未来について考えることを目的としています。テスラという我々の団体名は、テスラ・コイルや無線トランスミッターを発明したニコラ・テスラにちなんでつけられたのです。
ドイツでは、他国に比べ、ラジオを通して行われる音楽の発信や、ラジオを用いて作られる芸術的作品が多く生み出されてきました。

たとえば六月のテーマはラジオ・ポエトリーだったのですが、これは1920年代に始まったもので、詩をラジオの技術を使って、マイクやミキサーなどをつかって、フィールドレコーディングもおこなって普通の朗読や紙に印刷されたものとは全く異なる世界を作り出すことでした。文学としてではなく、音やノイズのアートとしての新しい境地を切り開いたものだったんです。  
 このプログラムのポイントは、参加者が質問や意見交換を通して、より深い理解を得ることができることです。これは、ただ観て帰るというような展覧会/コンサート形式では味わうことのできない、全く正反対の重要な経験だと思います。最初はインターネットを通じて放送しようと考えていましたが、著作権の問題により実現できませんでした。今は逆にそれができなくて良かったと思っています。というのも、普通のラジオと違って、ながら聞きをしているのではなく、聴こうと思って来ている人たちは、集中の度合いも違うし、密度の濃いものになっているからです。


Q.一般的なギャラリーやアート・スペースではなく、「ラボラトリー」を目指して活動することに対してどう考えていますか

A .私たちは、この二年半の間、フェスティバルのようなことは行って来ませんでした。もちろんそれは予算的に難しいという現実的な理由もあるのですが、ミーティング・スペースとして活動する方が、私たちはより多くのことを学べると思っています。
ベルリンには本当にたくさんのアートスペースや組織があって、そのなかでアイデンティティを確立していくことは容易ではありません。年中フェスティバルやイベントが行われていますし、著名なアーティストや大規模なものもたくさんあります。我々は、展覧会やライブを次から次へと行い、アートが消費されていく現状に疑問を持っています。
テスラというラボラトリーは、メディア・アートに魅了されることや、何らかの刺激を望んでいる人々には、期待はずれで退屈な場所かもしれません。でも、誰かと意見を交わしたり、疑問に思うことを率直に投げかけたり、アーティストと直接話をしたり、そういうことに興味があるのならば、ここにはその機会が沢山あります。私たちが隔月で発行しているプログラム冊子は、テキストのみで構成されていて、アーティストのプロフィールの詳細も画像もありません。立地条件も良いとは言えませんし、わざわざ足を運ばなければならない場所です。ある意味でもっとアクティブにならないと入り込んで行けない場所ですが、その分意欲的な人が集まる場所で言えます。そのような場所はベルリンにはそうありません。

Q.アーティストたちの反応はどうでしょうか

A.レジデンス・アーティストの中には、自身の制作に集中しにくいと言う人もいますが、実際にオープンスタジオやプレゼンテーションを行ってみると、考えが変わります。今まで会ったことのない人々に刺激されたり、メディア・アートに知識の乏しい人から質問をされたり、専門家からの質問やコメントをもらうという経験は、彼らにとってプラスになります。

モーリッツ・フォン・ラパード氏
スタジオ前
小さなショップもある
ショップ横では映像プロジェクションスペースもある
例えば、シェリー・ヒルシュというアーティストは、ここに来たとき3つの異なるプロジェクトを抱えていたのですが、オープンスタジオを通して彼女は沢山のアイデアや反応を得たようで、それぞれのプロジェクトのアイデアが融合し変化していることに彼女自身が楽しんでいるようです。
観客からも、テスラはクオリティが高く、非常にオープンで参加しやすいとの評価を得ています。


Q.今後の課題はありますか?

A.テスラは当初、アーティストやアートに興味のある人だけでなく、科学者、数学者、社会学者などが集まる場所にしようと考えられていました。他の分野とももっと積極的に異なったアイデアを共有していく方が面白いと思いますし。今後は、少しずつその方向へ持っていけたらいいなと思います。アートそれ自身、アートの組織において、「全てはやり尽くされた」と言う人もいますが、私たちは、まだできることはたくさんあり可能性があると思っています。それを信じてアイデアを膨らませていくことが、大切なことだと思います。

 
 
テスラのDMや小冊子は文字のみで構成されている
 
   

アイデアがふ化する場所


 より多くの人に観てもらうことを意識したアート・スペースと、より専門的な内容を求めている人を対象にしたアート・スペース、そのどちらも必要である。テスラは後者にあたる。ラボラトリーと聞くと、閉鎖的な印象を抱くかもしれないが、レクチャーやディスカッションなどは気軽に参加できる。皆それぞれ目的を持ってテスラを訪れ、人の意見に耳を傾け、意見を交わし、得たものをそれぞれの道へ持ち帰るー会話を通して理解を深め、創造につなげていく場である。テスラは、集う人たちのアイデアをふ化する為の、貴重なオープン・ラボラトリーとして存在しているのである。


 
 
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