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ベルリンアート便り
   
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  1.クンストファブリーク外観2.ギャラリースペース3.事務室の横も開放的なスタジオスペースに。


ベルリンアート便り 第4回
Kunstfabrik am Flutgraben (クンストファブリーク・アム・フルートグラーベン)

 冷戦の象徴であったベルリンの壁が崩壊してから今年で17年。一つの街が分断されていた痕跡は、今も街のところどころで目にすることができる。そう遠い過去ではないこの出来事に対し、アートが関与するならば、それはどんな方法であろうか。

かつての国境監視施設で活動するアートNPO


 Kunstfablik am Flutgraben(クンストファブリーク・アム・フルートグラーベン、以下クンストファブリーク)は、トレプトワ地区のシュプレー川につながる堀沿いにある。この建物は、もともと電車や自動車などの修理工場として建てられたが、東西分断時代には、東ドイツの国境警察が監視を目的として使用していた。ベルリンの壁崩壊後まもなく、アーティストたちが制作やイベントに使い始め、その後、リノベーションや組織の再編成を行ない1996年にクンストファブリークが誕生する。
彼らはベルリンのアートと文化生活をより豊かなものにすることを目指したNPO組織で、主な活動は、スタジオ運営、スポンサーとの連携事業、他の団体との連携事業、監視塔でのアートプロジェクトに分けられる。
 40室あるスタジオは、一平方メートルあたり約5ユーロ(800円)という非常に安価な値段で提供されており、24時間制作が可能。現在は、世界中からやってきた約60名ものアーティストが入居している。
2002年からは、地元のガス会社をスポンサーとしてパートナーシップを結び、ベルリン在住で35歳以下の若いアーティストを対象としたコンペを設立し、毎年開催している。入賞作家たちは、賞金や小冊子作成のほか、このガス会社のビルに設置する作品制作の機会を与えられる。年々ビル内に増えていく作品は、社員や関係者だけが目に触れるだけのものにするのではなく、クンストファブリークが定期的に作品鑑賞ツアーも実施している。また、ツアーはアート鑑賞月間のような大きなイベントにも組み込まれるなど、多くの人が鑑賞できるようになっている。この活動は、資金援助をしてもらう代わりに社名を大きく出す、というありきたりのスポンサーとの関係ではなく、双方が非常に密な関係を保って事業を作り上げていくメセナ活動の成功例となっている。
その他にも、彼らはベルリンで行われるアートフェアを始め多くのイベントに参加するほか、スタジオに入居しているグラフィックデザイナー達が企画したデザイン系のフェスティバルにも協力している。

歴史について話し合う事

 そして今回焦点を当てるのが、ベルリンの壁の監視塔を使った「レッツテ・ユーバープリューフング」(最終点検という意味)というアート・プロジェクトである。この監視塔は、クンストファブリーク近隣の公園内にあり、1992年より歴史的建造物に指定され当時の状態に修復されたものである。公園自体も、かつては、デス・ストリップと呼ばれる無人地帯であった。
プロジェクトのディレクターであり、クンストファブリークのメンバーであるスベンヤ・ムーア氏に話を伺った。

Q.なぜこのプロジェクトを始めたのですか?

A.この場所を使わないかと区役所から打診されたのがきっかけです。それからベルリンの壁について色々調べたのですが、私はこの壁について考え、話しあうべき点が多くあることに気づきました。それを芸術でもって深く掘り下げ、討論できる場を持とうと決めたのです。現在と壁が崩壊した当時では、歴史の捉え方に違いがあると私は考えます。なぜこの監視塔があったのかを今振り返ってみることが必要なのです。

Q.暗くて忘れがたい歴史を人々に再考してもらうために、このプロジェクトは存在するのでしょうか?

A. もちろんそれは重要な点の一つです。例えば、日本にも広島に原爆の記念碑がありますね。そのような場所を訪れた人々は、そこでかつて何が起こっていたかを知ります。その事実に対して、私たちは考え、話すことが重要なのです。私はこのプロジェクトを通して、ここにはまだ監視塔が残っているのだということ訴えたいのです。

Q.ベルリンの壁を題材にした作品だけを展示しているのでしょうか?

A.いいえ。ベルリンの壁だけをテーマにしているわけではないし、ドイツ以外の作家も発表しています。例えば最初に行った展覧会で扱ったのは、シガリット・ランダウというイスラエル在住の作家でした。これは、裸の女性が有刺鉄線でできたフラフープをまわす映像作品です。非常に象徴的な作品で、特にイスラエルとパレスチナの間の国境問題について言及していると解釈できます。しかし、この作品はその問題だけではなく、監視塔の果たしていた機能や人々が感じていた恐怖にも通じる点があります。さらに、今の世の中にも存在する問題にも当てはまることがあるかもしれないでしょう?それが重要なんです。



スタジオの広さは様々、ここは12平米。
協賛しているデザイン・フェスティバルの様子
ガス会社の作品鑑賞ツアー風景(中央のオレンジ色の女性がスベンヤ・ムーア氏)
監視塔外観
 
 
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基本情報
名称:   Kunstfabrik am Flutgraben
住所: Am Flutgraben 3,12435 Berlin,Germany
電話:   +49.30.53.21.96.58
ウェブサイト:   www.kunstfabrik.org/

著者のプロフィールや、近況など。

木坂 葵(きさか あおい)

1978年生まれ。神戸大学文学部卒業。
在学中よりNPO法人大阪アーツアポリアにてコーディネーターとして勤務。その他、関西を中心に美術の裏方業務経験を積む。
2006年10月よりドイツ・ベルリンに滞在中。

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