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ベルリンアート便り
   
  会期中は毎日ほとんど休憩も取らずに書き続けた。

 
会場中央で行われたパフォーマンス風景。
「ベルリンを自分の居場所として、自分の方法でやっていける可能性を感じます。」

Q.ベタニエンに来ることになった経緯を教えてください。

A. 2000年にベルリンに初めて来た時、街がカオスのようなエネルギーを持っていて興味を持ったことと、ベタニエンも施設が良いって聞いていたことがきっかけです。僕はこれまで海外でパフォーマンスをやることも多かったけど、全部実費だったし、自分の方法でやっていた。奨学金とかレジデンスとか全く知らなくて、人づてに教えてもらって、そういうものに応募してみるのもいいな、ぐらいの軽い気持ちだった。それで、実際に奨学金を獲得することができました。一度そういうことになったら普通じゃ満足できなくて、この施設も思いっきり使ってます。よく、「君はどこにでもいるな」っていわれます(笑)。自分のスタジオにいることは結構少なくて、工具使って同時にコンピューター使っていたり。

Q.ベタニエンの印象は?

A.当初は、想像していたよりもずっと静かな雰囲気だったことに少し不満を感じていました。もちろん、アーティストは制作に集中しているということなんですが。事務局が定期的に集合をかけることも無いし、本当に個人でやっていく感じです。もちろん他のアーティストとは仲良くなりますし、刺激も受けます。キュレーターなどのスタジオ訪問の数は期待していたほど多くなかったので、もう少し増やしてくれるよう事務局に他のアーティストと一緒に申し出ました。その結果、訪問数も増えてきているので良かったなと思います。

Q.滞在して良かったこと、新たに発見したことは?

A.お国柄があるのかもしれないけど、自身と照らし合わせながら、作品をじっくり観てくれる人がとても多いです。深いところも観てくれるような感じがしますね。それに、ドイツ人はテキストを読むのが大好き!今回のテキスト+写真という展示方法も、功を奏しました。逆に日本では、リアクションが薄いような気がする。良かった、きれい、という反応は返ってくるけど、よっぽど興味がある人は別として、基本的に自分との関わりを持って観ようとする人は少ないと思います。興味を持ってもらうというのは大事だし、きちんと観てくれるとすごくやり甲斐を感じます。

Q.逆に、不慣れな土地で制作することについてのマイナス面は?

A.めんどくさい(笑)。ドイツ独特なのかわからないのですが、なにかにつけて時間がかかる。大工さんとか技術スタッフなどの専門家がここにはいますが、頼んでも彼らの方法論に乗っ取ってやるから、少しやり方が違う。終わりは良いものができるかもしれないけど、もっと早くやってほしい、というのはありました。
でも、彼らも、仲良くなるうちに好意的に色々手伝ってくれるようになりました。今回はベタニエンのスタッフだけでなく、友人や知り合いなど多くの人にお世話になりました。展覧会によっては、オープニングには大勢の人が来るけど、その後は来場者の少ないものもあったので、広報努力は自分でもしました。友達に協力してもらったり、イベントでプレゼンしたり、インターネットで情報を流したり、後半は情報誌に取り上げられて動員数も伸ばせました。純粋に頑張っている、目標を持ってやっていると協力してくれる人がいるのはありがたいことです。今後は、単純に自分のプロジェクトに集中していけばいいのかなと思います。


Q.ベルリンで活動することについてどう考えていますか?

A.ベルリンはアーティストがたくさんいて、スタジオも安く借りれて、適度にインターナショナル、僕にとってはそれほど大都市という感じがしない。ベルリンで少しずつ活動を口コミで広めていってもらうことが可能。その点は、僕のやっていることが原始的な方法で、生身を使っていることもあって、すごく重要です。東京などの大都市では、先に情報が行って、人から人へっていうのはその後なんです。昨年滞在したニューヨークも、土地が高いし、コマーシャルな動きがメインだし、ノンプロフィットというのは二の次で、パッと来た短期滞在者にはチャンスが少ない。僕のようなパフォーマンスがメインのアーティストはなおさら。

 でもこれくらいの規模の都市だと、人が面白いと言えば、それを聞いて人が来たりする。街の規模が自分に居心地が良いし、作品を純粋に作れている気がする。外国でやっているというのもあるかもしれないけど、変にしがらみも感じないし、自分で良いと信じたものを純粋に作って発表していけば、時間はかかるけど人が関わってくれたり、人を動かしていけるのかもしれないという感覚が今すごくあります。

 例えば、パフォーマンスをすると、観てくれた人からメールが来て、会うことになって、次の話が決まっていくーそういうことが直接的に自分で話して決めていける。出会った人とは、また別の機会で協力してもらえたりとか。次は一年間のプロジェクトをベルリンでやりたいと思っているのですが、それが可能な場所を探しているとあちこちで言っていると、展示を観に来た人が、「場所を知ってるから今度一緒に下見に行かないか」ということになっていったり。
自分の気持ちとして、プロジェクトを10年続けてきたことは支えになっているし、自信もつきました。ここを自分の居場所として、自分の方法でやっていける可能性を感じます。


鈴木さん、ご自身のスタジオにて。

 

 レジデンス・アーティストとして滞在することに安住するのではなく、それを拠点に次々とアクションを起こし続けてきた鈴木さん。今回のレジデンスは、プロジェクトを継続させていく意思と自信、キャリア、場所、様々な要素が相まって、彼の活動を前進させる機会となったようだ。
たとえレジデンスの機会を得ることができても、与えられたシステムに参加するだけで、自分の想い描く成果を得ることができるとは限らない。ベルリンには星の数ほどアーティストがいて、あちこちで展覧会が行われ、知らない外国人作家の展覧会をDM一つで興味を持って観に来てくれるほど甘くはないというのも現実。
レジデンスは制作そのものだけでなく、自分が活動とする拠点を見極めたり、様々な点で自分の大いなる可能性を追求ことできる機会なのだと思う。

 
 
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