topreviews[「ようこそ。ここは光のワンダーランド 魔法の美術館」/愛知]
「ようこそ。ここは光のワンダーランド 魔法の美術館」

メディア・アートのありかたと可能性

TEXT 藤田千彩



展覧会フライヤー



まったく個人的な話だが、今年の2月に「文化庁メディア芸術祭」内のイベントで司会をした。
「文化庁メディア芸術祭」で扱う作品は、ゲームや広告宣伝もあり、いわゆるメディア・アートと呼ばれるジャンルの人たちにも話を聞いた。
メディア・アートというジャンルが、コンピューターや映像だけではないということを改めて知った。

そうはいっても、アートにおけるメディア・アートの歴史や発展を考えたとき、コンピューター抜きには語れないし、映像作品単体や映像作品と何かを組み合わせてインスタレーション化していくことが、当たり前の流れとして考えられている。
コンピューターの存在は、絵具などの素材に対抗し、テクニックをも奪っていった。
CGの使い方次第で、クリエイティブ性より理数系能力を求められ、複雑な数式やアルゴリズムを「表現」するようになった。
そう、アートにおけるメディア・アートは、とても難しいものになっていき、難解ゆえに高尚なものとしてとらえられるようになっていった。

かたや8月27日に国際交流基金であった、東アジアのメディア・アートについてのレクチャーを聞いたとき、いくつかの国の人たちは「メディア・アートはDIYである」と言った。
プロジェクターを自分でつくるアーティスト、という意味でのDIYは、彫刻家の仕事としてとらえられているようだった。
必ずしもパソコンの中だけでの作業ではないのだ。

「メディア・アート」という言葉が、つくり手にとってこのように複雑である現在。
私は見る側のとって貴重な展覧会を目の当たりにした。
それが松坂屋美術館での「魔法の美術館」展である。

松坂屋美術館は、名古屋の繁華街・栄にあるデパートの上層階にある。
デパート系美術館が姿を消して久しいが、この松坂屋美術館は健在で、夏休み向け企画としてメディア・アートの展覧会を開いていた。
私が行ったのは夏休み期間の日中。
普段はおごそかな態度が求められる美術館だが、館内ではスタンプラリーのスタンプをスタッフの人に押してもらうため、子どもたちが走り回っていた。
そして作品に「何これ!」「すごい!」「きれい!」と驚きの声を挙げている。
このような声は近年の美術展(特に現代美術)ではまず聞かないし、美術と出会ったときの衝撃を表現しているようだった。
そして、「メディア・アートは難しい」と思われている風潮を壊すくらい混んでいる会場を見て、不思議な感覚に陥った。
自動車や機械の街・名古屋(あるいは愛知)だからこそ、誰もが行きやすいデパートの美術館で、メディア・アートの展覧会を開くことができたのではないか。
もっともメディア・アートは、インタラクティブ(鑑賞者が作品を触ると動く、という仕組みがあるようなもの)であったり、絵画や彫刻よりも楽しみながら工夫できる(=想像力をつかう)ことができるジャンルである、と言えよう。


アトリエオモヤ《光であそぶ》 (C) AtelierOMOYA

アトリエオモヤの作品は、コンピューターやCGではない。
大きな六角形の立体物の底辺にビー玉が溜まっており、その底辺を覗き込んで楽しむ。
布の底辺を叩くと、中のビー玉が飛び跳ねる。
万華鏡のように見える像は「きれい」と思わせ、叩くという行為で単純なインタラクティブ性を持たせている。

宮本和奈《ミラボン》(C)kazuna MIYAMOTO

巨大なミラーボールを手で回すことで、反射光が会場の壁面にキラキラと照らされる。
ゆっくりまわせば、粒のひとつひとつを見ることができるし、早く回せば流れ星や川の流れのようなきらめきを持っている。
ミラーボールを回すという見る人との協働作業は、見るだけでなく作品を一緒に楽しむことができた。

真鍋大度/比嘉了《happy halloween!》 (C)daito MANABE/satoru HIGA

CGを楽しむ手法は多様であるが、親しみやすく楽しむようにつくることはなかなか難しい。
椅子に座った瞬間から、「顔」を認識し、その顔の上に動物やキャラクターの絵が載って行く。
しかも一瞬一瞬で載せられる「顔」は変化し、見る人たちを飽きさせない。
子どもたちは体験したがり、「ママ見て!」と促された大人たちも一緒に笑いあう。
こんなハッピーな美術作品が他にあるだろうか。


plaplax(近森基/久納鏡子/筧康明/小原藍)《Kage's Nest》 (C)plaplax

plaplaxの作品は、真っ白いスペースに足を踏み込むと、自分の影以外に影が出て来る仕組み。
その影は動物や鳥、植物などの形をしていて、手を伸ばすだけで違う影が出て来る。
どういう影が出て来るかは予測がつかないため、子どもだけでなく大人も手を振ったり足を挙げていた。
ダンスを踊っているような格好になっていることを、見て(体験して)いる本人は気付いていないだろう。

その他、越後妻有アートトリエンナーレで十日町キナーレにできた越後妻有里山現代美術館や栃木県立美術館「光あれ!」展など、この夏いろいろな展覧会に出品していたクワクボリョウタの作品が置いてある部屋は、とても混んでいた。

「メディア・アートは難しい」のだろうか。
キュレーションあるいは場所の力で、敷居を低くしたり、エンターテインメントに近づけることができるのではないだろうか。
そうすることへの良し悪しはさておき、メディア・アートというジャンルのありかたと可能性を考え直すきっかけとなった展覧会である、と私は思った。


「ようこそ。ここは光のワンダーランド 魔法の美術館」
2012年7月28日〜9月2日

松坂屋美術館(愛知県名古屋市)

 
著者のプロフィールや、近況など。

藤田千彩(ふじたちさい)

アート+文章書き。
京都精華大学で非常勤講師を後期もやります。授業は木曜午後、モグリ可、けっこー現代アート実践的。
仕事はなんでも受けます
chisaichan@hotmail.com




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