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週末芸術 Vol.01

可能性に出会う週末
TEXT 横永匡史



HAT外観

 
宇都宮には栃木県立美術館と宇都宮美術館と2つの美術館があるなど、アートを鑑賞する環境は整ってはいるが、こと現代美術について言えば、若手作家の発表や交流の場は限られているのが現状だ。
また、宇都宮という街自体も、郊外への大型商業施設の進出などで中心部は空洞化が進み、街の活性化が大きな課題となっている。
今回の会場となるHAT周辺も、駅に近いという好立地でありながら、街並みもどこか閑散としていて人通りも多くない。
そんな中「まちづくりや文化発信の拠点となるように」と設計されたこのHATは、大谷石や烏山和紙など、地元の名産品を取り入れてデザインされており、現代的な中にも心安らぐ空間となっている。
そのHATで、現代美術に取り組む若手作家の発表・交流の場として「週末芸術」は企画された。
まず今回はVol.01として、栃木県出身の若手作家3人の個展が土・日曜日に3週連続で行われた。

 
 
 
5/13〜14 タムラサトル

まず最初の週は、タムラサトルの「Standing Bears Go Back(Short Version)」と「Weight Sculptures」シリーズの数点が展示された。
何と言っても窓際に設置された「Standing Bears Go Back(Short Version)」が目につく。
HATに面した通りからもガラス越しに大きくクマが見えて、観る人に「アレは何だ!?」と思わせるインパクトがある。
まるで、これから始まる「週末芸術」という展覧会の、あるいは現代美術という表現の存在を知らしめるショーウィンドウのようだ。
そして室内に入ると、ときおりクマが動く音が響きわたり、有無を言わさぬ迫力に圧倒される。
一方、反対側の壁際には「Weight Sculptures」シリーズの中でも小さい作品と「100kg Man」を上映するポータブルのDVDプレーヤーが並べてちょこんと設置され、巨大なクマとの対比もあって、何とも言えないおかしさをかもし出していた。

タムラサトル「Standing Bears Go Back(Short Version)」[+zoom]
  タムラサトル「Weight Sculptures」シリーズ 右から「30g Toy」「100g Judo」「100kg Man」[+zoom]

 
 
 
5/20〜21 渡部華子

次の週は打って変わって室内には暗幕が張られ、渡部華子の映像作品「Phantom」が上映された。
映像には広大な那須の大自然を背景に何事かを語りかける女性がうっすらと重なり、那須に伝わる民話の一節がテキストとして添えられている。
画面に映る女性の像は、ときおりテレビのゴーストのようにズレたり、水面に映る影のようにゆらめいたりする。
観ているうちに、何だか画面の女性が背景と一体となって見えるというか、那須という土地そのものが女性の姿で語りかけてくるように感じるのだ。
きっとそれは、民話に代表されるような、その土地の歴史やそこにこめられた人々の想いが積み重なっていて、それが女性のかたちをまとうのだろう。
そして、自分の想い出もだんだんそこに重なってきて、画面に映し出される光景に包み込まれるような感覚を味わう。
そうした想いは、かたちを持たずにゆらめく「Phantom」(=“幻”)のようなものかもしれない。
しかしだからこそ、失われることなくそこにとどまり続けるのだろう。

渡部華子「Phantom」[+zoom]
  渡部華子「Phantom」展示風景[+zoom]

 
 
 
 
 

5/27〜28 塩田大成

最後の週は、塩田大成のインスタレーション「exp-R」が展示された。
室内は一見がらんどうの空間に見えるが、中に入ると、不意に足に何かが引っかかる感覚を覚える。
床を見ると、黒い床板の隙間に黒いゴム板とアクリル板が出っ張るようにびっしりとはめられているのに気づく。
塩田大成は主に空間デザインを手掛ける。彼の作品は、自分の意図した空間を作り出すための「experiment」(=“実験”)なのだという。
このゴムの板とアクリル板が設置された中を歩いてみる。
板と板の間に平行になるように足を入れれば板を踏まずにすむが、普通に歩こうとすると、どうしても板を踏んでしまうことになる。
ゴム板を踏むとグニャっと柔らかく曲がり、着地点を微妙にずらされる違和感を、アクリル板を踏むと、硬くてなかなか曲がらず、板の断面が足の裏に当たる違和感を感じ、イヤでも板のことを意識せざるをえない。
普通の床が、ゴム板とアクリル板をはさむことによって、全く印象を異にする床に変貌を遂げ、その上を歩くという僕たちの「experience」(=“経験”)も特別なものになっていく。
そして、歩き終わった後も、足の裏には普通に歩こうとした意図を微妙に外された違和感が残り続け、このHATの室内が特別な空間のように感じるのだ。
また、この作品の中を歩く人々を傍らから見ていると、それぞれの人の行動が皆違って見えるのが興味深い。
板を踏まないように忍び歩きをする人、板が外れるのを律儀に直していく人、板に足が引っかかると悪態をつく人…
そんな仕草の一つひとつから、その人の人となりをも浮かび上がらせるのだ。

塩田大成「exp-R」展示風景[+zoom]
  塩田大成「exp-R」展示風景[+zoom]
塩田大成「exp-R」部分拡大[+zoom]


その先の可能性に刮目せよ

3人の作家による3つの展示は、作品の種類も会場の使い方も異なる。
それは、会場の可能性を試すようでもあり、「週末芸術」の可能性を試すようでもある。
率直に言えば、展示にもまだまだ試行錯誤の跡が散見されるし、向上の余地もまだまだ残されているように思われる。
しかしだからといって否定的に感じたわけではない。
作家にも運営にも新しいことに挑戦しようとする熱気を感じたし、この空間で他の作家が展示したらどのように見えるだろうか、という今後への期待も強く抱かせた。
また、印象的だったのは、どの展示においても多くの人が集まり、交流の輪が生まれていたことだ。
作家や美術関係者、愛好家、そして通りすがりの人まで、実に多種多様な人々が集まり、室内やオープンテラスでは様々な話に花を咲かせていた。
これこそが、この「週末芸術 Vol.01」のもっとも大きな成果であり、この光景を見ていて、栃木に住み現代美術を愛する者として、まさにこういった場を僕は求めていたのだと実感した。
この「週末芸術」は、10月に「週末芸術 Vol.02」として、今回同様に3週連続の展覧会の開催が予定されている。今回のVol.01の出展作家はすでにある程度の実績を積み上げている作家が中心だったが、Vol.02では若手作家の他、市内の現役の学生の出展なども予定されているという。
このHATという特色ある空間の可能性と、まだ見ぬ若い作家の可能性がかけ合わされるとき、どのような化学反応が起こるのか、注目していきたい。

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週末芸術 Vol.01 
http://weekendart.blog57.fc2.com

HAT
(栃木県宇都宮市)
2006年5月13日〜28日

主催:週末芸術 / シオダシンゴ(建築家),イシカワアツコ(アートコーディネータ)
協力:タムラサトル(現代美術作家)
 
著者プロフィールや、近況など。

横永匡史(よこながただし)

1972年栃木県生まれ。
2002年の「とかち国際現代アート展『デメーテル』」を見て現代美術に興味を持つ。
現在は、故郷で働きながら、合間を見て美術館やギャラリーに通う日々。




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