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学生企画公募展「Beautiful Thing 〜美しいこと〜」吉田 翔


一瞬の真実はみんなのもの。
永遠の記憶は、わたしだけのもの。(2/2)
TEXT 草木マリ

光がレンズをすり抜けて、網膜に画像を映し、脳に届けられた情報がなんらかの感情の信号をだす。
「なにが人の心に〈美しい〉と思わせるのだろう」、雲間から海面へ射す弱い太陽光を眺めながら、そんな話を友人とした。わたしたちの心に浮かぶこの理由のない動揺はなにのためだろうかと。別の友人はこういった。「人の力ではつくれないものが、圧倒的な美しさをみせる」と。ああ、そうかもしれない、と思った。

作業台の上の絵の具。
吉田くんと、白と黒のみの画材。
それぞれ数種類の質感と色見を使い分 けるのだそう。。

その2:ずっと奥にある理由を知りたいと思う?
(吉田翔くんのことを考える)

 
 
湾曲したパネルは、見るものの動きと共に印象を変容させる。
大阪成蹊大学芸術学部学内ギャラリー〈spaceB〉の新学期最初の展覧会となる「BeautifulThing〜美しいこと〜」は、胡粉と水干絵具で描かれた絵画の展覧会である。白と黒だけで湾曲したパネルに描かれた作品は、一見、いわゆる「日本画」と呼ばれているものとは印象が違うかもしれない。
とはいえ、日本画の定義自体が難しいので(日本画にかぎったことではないけど)、そんなふうに考えるのもばからしいことなのだろうけど、でも彼の作品は〈時代と共に進化した同時代の日本画〉と思えるような、一種の心地よさがある。
美しい世界の一場面を、自分の解釈を通して描きおこすこと、とても日本画的だと、勝手に私は感じている。
対象を美しく表現したり、作品そのものを美しくつくるというよりも、外界にある自然物(花鳥風月)の美しさに感服したような世界観。それが私にとっての日本画なのかもしれない。思い込みかもしれないけど。

彼も前回ご紹介した塚本さんと同様に、カメラを持って出かけては気に入った風景をおさめ、それをもとに絵を描く。彼は塚本さんとちがい、デジタルの一眼レフを使っている。写真が直接的な素材である塚本さんに対し、吉田くんにとっての写真は資料としての要素が強いのだ。
「ありのままを切り取って持って帰れるので、資料として写真は最高」なのだそうだ。あとは自分の記憶があればいい。

はじめて彼の作品を見たのは2年前で、そのときはもっとデザイン的な絵画だった。
ただ執拗に擦り込まれた木炭の黒が美しかった。
彼の作品は黒が美しい。実習室に遊びにいくと、たくさんの種類の絵の具をみせてくれた。
といっても白と黒だけなのだけど。たくさんの白と、たくさんの黒をみせてくれる。
どうして白と黒だけで描くのかとたずねると、子供のころから黒いものだけで絵を描いていたという。お母さんの持ち歩いているボールペンとメモ用紙で、どこへ行っても絵を描いていたのだそうだ。
新作をみると、以前より白の存在が大きくなったような気がした。なにか、もっと奥の方で、彼が変わっていくような予感がする。いい意味でね。

 
 
制作中の吉田くん。学内実習室にて。
吉田くんは絵がうまい。仕事もきちんとする。制作も展示プランにも不安はない。
なのにちょっと不安になる。まっすぐ過ぎる気がして。
まっすぐでいい、でもそのまっすぐの理由を、時にはたどってみるのもいいと思う。
自分がそれを選んだ理由、そこにはなにか思いがけない秘密があるように思う。
自分のかたちを知るためには、比較になる他のかたちを知る必要がある、だからもっといろんな場所でいろんなものを見てほしいと。年増のおせっかいだけどさあ、それもまあ、いいもんだよ。

その作品が好きだから、どこかで決定的に折れてしまいやしないかと、心配したりもしたけれど、最近ようやく吉田君の真の姿(?)を垣間みて、こりゃ案ずることもないなとおもっています。
すごく神経質でくそ真面目な人かとおもってたら、案外ざっくりとしていて、ええ、逆に安心しました。
いい仕事してね。

2人が白黒の写真を使うこと、そこには〈光〉と〈記憶〉がおおきな存在としてあるのかなと、思ったりもします。強い光はハレーションを起こしておおきな陰影をつくる。強い印象も、記憶の中ではハレーションを起こして、細部をとばして両極の様をなすのかもしれない。彼らの記憶の中で発酵する〈美しい〉景色には、カラー情報は無駄に重いデータなのかもしれない。

と、勝手な想像と押し付けがましい要望めいたことまで、書いてはきたけど、とにかく楽しみにしてるんです。これを書いている現在は、まだどちらの展覧会も準備段階。塚本さんの搬入がぽちぽち進んでいるところです。展覧会だけでなくて、その後のことも、かれらがどんなふうに、どんな景色と向き合っていくのか、楽しみで、こっちがうきうきしてしまう。どうかよい日々を。ふたりが出会った〈美しいもの〉を、たくさんの人と共有していけるといいね。

その1:「夢のような現実/うそのような真実」
(塚本さんのことを考える)


「Beautiful Thing 〜美しいこと〜」吉田 翔

大阪成蹊大学芸術学部 学内ギャラリー<space B>
2006年4月10日 (月) 〜 4月15日 (土)
12:00〜19:00(最終日:〜17:00)

出品:吉田 翔(大阪成蹊大学芸術学部 美術・工芸学科 研究生)
※入場無料
主催:大阪成蹊大学芸術学部 綜合芸術研究センター
http://www.os-art.jp/irc/exhibition2005/200508.html
 
著者プロフィールや、近況など。

草木マリ(くさきまり)

1976年京都府生まれ。
1999年成安造形大学造形学部卒業。
大阪成蹊大学芸術学部綜合芸術研究センター勤務を経て、
4月から無軌道生活が始まります。




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