top
\
reviews
[学生企画公募展「きらめきの彼方」塚本美奈/京都]
学生企画公募展「きらめきの彼方」塚本美奈
一瞬の真実はみんなのもの。
永遠の記憶は、わたしだけのもの。
(1/2)
TEXT 草木マリ
カメラを持ってでかける。
写真を撮って、もう一度その景色を眺めなおす。
その場で感じたなにか、そこでは感じなかったなにか、たしかにあったのに消えてしまった気持ち。
不確かな現実と私たちをつなぎとめているのは、変容しつづける曖昧な記憶。
ふたりの眼。ふたりの記憶。似ているようで、決定的にちがうもの。
同じものを目撃しながらも、残るものは決して同じではない。
それは少し寂しい現実。だけどそれはとても甘美な「世界の余白」。
大阪成蹊大学芸術学部(京都府長岡京市)の学内ギャラリー〈spaceB〉では、この3月と4月にかけて、2本の学生企画公募展を予定している。3月は27日から4月1日まで、映像メディアクラス3年生の塚本美奈「きらめきの彼方」。4月10日から15日には、日本画クラスの研究生、吉田翔「BeautifulThing〜美しいこと」。
2回にわたって、このふたつの展覧会準備中の2人をご紹介します。
在学生から募られた8件の企画から選出されたこのふたつの企画は、お互い、偶然にもゆるやかな共感のようなものを持っていると思う。
塚本は映像、吉田は絵画と、表現方法は違うが、表現への道のりには共通点がある。
日々の暮らしの中で「美しい」と心をひきとめる景色、それを写真におさめ、モノクロの作品へと昇華させる。写真をもとに作品をつくることはそう特異な行為ではない。ただ被写体の選定やその採集方法、作品から感じとられる印象が、心地のよいシンパシーをはらんでいる。
カメラを持って家をでる。心を動かす風景を切り取る。家に帰ってその風景をもう一度眺めなおす。写真の中に残された風景と、自分の記憶に残っている風景の間に生じるマージン。ぽかんと広がるその余白に向き合うことを、彼らは愛でているように私は思う。
その空白と戯れる、その行為が、映像編集であり、描くことなのかなと。
写真の大型印刷を張り合せ中の塚本さん。
写真と映像のサイズを調整する塚本さん。
その1:「夢のような現実/うそのような真実」
(塚本さんのことを考える)
現像室
彼女の作品は、現像時にいくらかの操作をした数枚の写真を、コンピューターに取り込み編集を加えたコマ録りアニメーションのような作品なのだけど、コマ数はごくわずかで、じんわりと、密やかに変容す
る。写真と映像の境目にあるような、グレーゾーンの美しい作品。瞼をこすりたくなる。今みていたものは本当のことだったのか、思い違いだったろうか、みていたと思ったけど、本当は違ったんじゃないか、と、心が揺らぐ。真実とは、現実とはなんだろう、彼女が静かに瞬きながら、思いを巡らせる息づかいを聞いているようだ。
今回の展覧会では、プロジェクターで天地いっぱいに映しだされる映像作品と共に、映像と同じサイズに引き延ばした写真とを見せるインスタレーションを発表する。
写真と映像、彼女のなかで、このふたつはいったいどういう存在なのだろう。
「写真は〈うそのような真実〉。映像は〈夢のような現実〉」なのだと彼女はいう。
写真はゆるぎのない確かな世界。でも過ぎてしまえばその信憑性は薄らぐばかり。彼女の記憶を媒体に生成される映像には、生き続ける未来があるのかもしれない。
被写体のほとんどは彼女の実家、長野の風景である。
木立、水たまりの氷、雪の上の影、雲間の光。それらは子供の頃にみた美しい景色と同じようで、同じではない。
田舎の風景も、時代と共に少なからず変化し、それを眺める彼女自身もかわり続けている。
それでも、かつて感じた「きれいだ…」という風景を探し続けているのかもしれない、という。
移ろい行くものへの郷愁や焦燥感、引き止めたい気持ちと、どうにもならないことも知っている現実。さまざまな感情がせめぎあい、揺らめき、そして少しはあきらめている。
写真を撮って歩いてまわるのは「何かを探し続けているんだと思う」という。「それが意味のないこと、追いつけないってこともわかってきたけど」それでも今は、その行為をやめられないのだそうだ。
単純で、不毛なことかもしれない。
でもものを生み出すこと。生み続けること。その為に必要なことは、ただそれだけなのだと思う。
真摯に自分の心と向き合ってゆく。報われないとわかっていても。
それでも求め続けてゆく日々。
ものづくる人たちの、ゆたかな人生だと私はおもうよ。
学生企画公募展「きらめきの彼方」塚本美奈
大阪成蹊大学芸術学部 学内ギャラリー<space B>
2006年3月27日 (月)〜4月1日 (土)
12:00〜19:00(最終日:〜17:00)
出品:塚本美奈(大阪成蹊大学芸術学部デザイン学科3年生)
※入場無料
主催:大阪成蹊大学芸術学部 綜合芸術研究センター
http://www.os-art.jp/irc/exhibition2005/200507.html
著者プロフィールや、近況など。
草木マリ(くさきまり)
1976年京都府生まれ。
1999年成安造形大学造形学部卒業。
大阪成蹊大学芸術学部綜合芸術研究センター勤務を経て、
4月から無軌道生活が始まります。
top
|
news
|
reviews
|
columns
|
people
|
special
|
archive
|
what's PEELER
|
writers
|
newsletter
|
mail
Copyright (C) PEELER. All Rights Reserved.