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wanakio2005「まちの中のアート展」


恥ずかしがりな混沌
TEXT 岡田有美子

「ワナオキっていう沖縄のアートイベントの報告会やってます!!お時間あれば聞いていってください。」横浜トリエンナーレ会場内のラジオブースの前で、ラジオのスタッフの女の子にそう呼び止められた。
「ワナオキじゃなくて、ワナキオなんですけど、、」と心の中でつぶやきながら席についた。それのスタッフなんです、というタイミングがつかめなくて、彼女の「ワナオキ」の説明をしばらく聞いてしまった。

 wanakioは、2002年に沖縄ではじまった現代アートの展覧会である。2002、2003と開催の後、話し合いや試行錯誤の末一年おいて、wanakio2005が11/18〜27の日程で開催された。世界9カ国、21組のアーティストたちが参加している割には、広報が弱いせいもあってあまり知られていない。
「wanakio」が始まった経緯などについては、PEELER specialページに開催前のインタビューが載っているのでそちらを参照していただきたい。

 その名の通り「wanakio2005 まちの中のアート展」は、那覇市内の観光客で賑わう国際通りを挟んだ半径1km範囲内くらいのまちの中で開催された。前島アートセンターのある前島地区、野菜の卸しの店舗が連なる農連市場、久茂地小学校、モノレール駅、国際通りに面したビルの空き店舗など、場所は様々。そこにアーティストが滞在して制作し展示をする。

 Loic Sturani(イタリア)は、伝統工芸の紅型を使ったアニメーション「現土地調査」を前島地区の地下にある空き店舗にて上映。紅型で描かれた動物たちに「沖縄に移住するならいつがいいですか?」などと、Loic自身が出演して質問する。音声はLoicが実際に地元のおじいやおばあにインタビューした声がはめこまれているのだが、Loicの片言の質問と、おじ意おばあの訛った答えが微妙にすれちがって、ついにはぜんぜん違う方向になっていくのがおかしくて、笑ってしまう。本当の沖縄はどこにあるのか?答えを求めて旅を続けるLoicと、質問をひょいとかわしながらペースに引き込むおじいたち。それは政治に翻弄されてきたこの島で、ゆったりと生きてきた島んちゅの県民性をうかがわせる。


(図1)
(図2)
(図3)
 安岐理加(東京)の「杣径」は、商店の並びにぽっかりとあいた空き地にてのインスタレーション。草ぼうぼうだった空き地(図1)に4日で立派な小屋を建ててしまった。ペチコートなど下着を縫い合わせた蚊帳と電球が中に吊るされた、通称「ズロースの館」。木でできた小屋の隙間からあたたかい電球の光が漏れ、ふと家庭のイメージを感じたりして中に入ると真っ白な下着につつまれ、不思議な気持ちになる。トタン屋根にトンカラトンカラと雨粒が落ちる音が館の中に響いて心地よく、気づけばそこで居眠りをしてしまった。とにかくつつまれてしまうのだ。

 まめまめちんどん隊(東京)は、展覧会オープン前に連日ワークショップをひらいた。子供たちと一緒につくったものがそのままオープニング会場の舞台装置やパフォーマンスとなり、ダンボールの獅子舞が国際通りを駆け巡った。たまたま同じ時間に、基地反対の大きなデモ隊が国際通りを通過してちんどん隊の音とぶつかった。

 鄒素芬(台湾/沖縄)「1+1×1=!」は、片方の長い袖が繋がったトレーナー(図2)を二人で着て、まちへ。長袖は縄跳びになったり、バレーネットになったり、交通整理になったり、障害になったりとその場その場で変化し、場の人たちを巻き込む。そこには常に三角関係が成り立っていると鄒はいう。

 照屋勇賢(沖縄/NY)は、沖縄の美術マーケットの起爆剤にとオークションハウスを開催。美大生からプロのアーティストまでが出品し、照屋自身がド派手な衣装を身にまといオークショナーをつとめた。オークションは異様な盛り上がりを見せて、今後の展開を期待させながら終幕。

 その他、小沢剛(埼玉)、葉偉立(台湾)など全部で40名ほどの作家たちが市内各所で動き回り、関連企画としてパルコキノシタのワークショップ(図3)が行われたりしたのだから、盛り上がったはず!!なのだが、そうでもないのだ。実に淡々としていて、静かである。wanakioは、まだまだ問題が山積みであり、地域に根付いているとも言い難い。だが、アート展終了後、こんな話を聞いた。

 小屋を作った安岐は、期間中地元の人はほとんど入ってくれなくて、最初はどうぞと勧めてみたりもしたが、それは自分のやりたいこととは違う、と途中から人を呼び込むのはやめたらしい。が、期間終了後解体作業をしていると、「あい!もったいない!」「なんだかよくわからないけど、みんなで小屋の中にはいって変な気持ちになるね〜と言ってたさー」などと、たくさんの人に声をかけられたという。「沖縄の人は恥ずかしがりだけど、ちゃんと見ていてくれるんだと思った」と安岐は言う。
 農連市場を片付けていたら「いつもやられたら仕事の邪魔だけど、たまにならどんどんやって」と声をかけられた。久茂地小学校では、学校側から展示の延長の申し入れがあった。すし屋のカウンターでは、地域の親父たちが「まちの中にあんなの置いていいなら、俺も作って置くからな。もう構想はあるんだ。」と語っているのを目撃。いや、これってすごくない?だって、地元の親父たちの酒の肴が現代アートなのですよ、インテリじゃないですか。

 さっき40名程の作家と書いたが、参加作家数は主催者にも把握しきれていない。なんせ、会期中にキュレーターは参加作家を増やすわ、仲本賢(沖縄)の「前島3丁目ストリート系ミュージアム」では、どんどん作家が増えていくわ、まちの親父はこっそり作品を忍ばせるわでもう無法地帯。パンフレットに載っていない作家がたくさん参加している。それが許される空気がこの島にはあり、そこで行われているのがwanakioなのである。

「ワナオキじゃなくて、ワナキオです!!」ととっさに言えなかったのは、ハマトリに比べたらワナキオなんて…という引け目があったのでは、と後々思ったのだが、こうしてみるといやいやなかなか捨てたもんじゃない。ワナオキだか、ワナキオだか、ワキナオだかよくわからないけど、確かになんだかやってる、のがwanakioなのである。


wanakio2005「まちの中のアート展」

那覇市内各所(前島3丁目地区、桜坂地区、農連市場など)
2005年11月18日(金)〜11月27日(日)
期間中無休/入場無料
 
著者プロフィールや、近況など。

岡田有美子(おかだゆみこ)

1982年 愛知県生まれ
武蔵野美術大学 芸術文化学科卒
現在 NPO法人前島アートセンター職員

沖縄県民でも、観光客でもない立場から沖縄のことを紹介したいと思います。
不幸体質な楽天家。




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