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渡邊トシフミインタビュー

制作年2010(C)TOSHIFUMI WATANABE

ベース


福田
渡邊さんは新潟県出身だそうですね。
新潟県出身というところに「故郷に還元したい」という気持ちが強いと以前伺ったのですが、それはどのような想いですか?

渡邊
はい。作家として故郷はきれないものですよね。「アトリエ」というか僕の言い方だと「ベース」をそろそろ意識しなくてはいけなくなりました。
僕の中では当然なことです。東京で日本のアートシーンの最前線にいるわけだから、その学んだことを故郷に還元して、地方のアートシーンを盛り上げたい気持ちは自然な流れです。
自分だけがその知恵を独り占めする作家はくたばれって思います。たまたま新潟県出身だったということで、どの地方(もっと田舎)でも僕の考えは同じです。
今いろいろな意味で新潟のアートシーンは盛り上がっているなんていうけど、それはまだまだ表面的なことだと思います。大切なことは地方作家がどれだけ中央の作家とやりあえる力、作家としての意識を持つかが重要だと思います。
文化においては、地方も中央もない時代になりつつあるのです。それが今の時代本当に可能になりつつある。
ネットの発達などが大きな理由です。どこに住んでいても継続できる可能性があるのです。地方の若手作家は生の作品や情報量に惑わされてないぶん、面白い作品を自由に発表しているケースがあります。
ただ意識が低いように感じます。けどそれは美術家として生きるという意識ではなく、ただ美術を純粋に楽しんでいるのだと思います。地方変えるチャンスが今あります。これからもっとあるでしょう。やるかやれないかの判断は、僕らや今30代40代の地方出身で活動している作家達の責任にかかっているということです。47都道府県対抗のアートプロジェクトができたら理想ですよね。最高に面白そうだと思いませんか。

福田
ありがとうございました。今後「渡邊トシフミ」がどうなってゆくのか、楽しみに拝見させていただきます。

渡邊
ありがとうございました。
ではまたどこかでお会いしましょう。


レジデンス期間中「お金が無い」と彼は何度も言っていた。それは泣き言でもなんでもない、ただの事実だ。その自分の状態、現状と向き合い、そのなかでいかに「造形」するか。

 今回一番好感が持てたのは、渡邊トシフミがこのレジデンスでこの場所で、そしてそこで出会った人たちなくしては成立しない作品だったことだ。
 何のごまかしも、格好つけもしていない彼の「オリジナル」はリアルだと感じた。

 渡邊トシフミのレジデンスでの制作から感じたのは、「毎日の生活」と「積み重ねる一日一日」という「技巧」の臭いだ。その「技巧」は、日々の積み重ねの中 で、職人や技術者が確実に蓄積してゆく<なにか>だ。その<なにか>は生活に最も近いところにあり、ちょっと遠くにもある。毎日を 積み重ねる事。ただ黙々と積み上げられるだけでなく、そこで確実に変化してゆくもの。特権的な技巧ではなく、生活者誰しもが持っている「技巧」。その「技巧」は、日々の積み重ねの中で、職人や技術者が確実に蓄積してゆく<なにか>だ。その<なにか>は生活に最も近いところにあり、ちょっと遠くにもある。
 毎日を積み重ねる事。ただ黙々と積み上げられるだけでなく、そこで確実に変化してゆくもの。特権的な技巧ではなく、生活者誰しもが持っている「技巧」。
今回の制作には「渡邊トシフミ」という(それは渡邊トシフミと関わって渡邊トシフミを構成する一部になった人たちも含め)美術家であり生活者の「技巧」が、もっとも素直で、心地よく現れているのではないかと感じた。

 渡邊は「美術家」であるといったが、彼のレジデンスでの制作をみていて頭をよぎったのはヨゼフ・ボイスの「社会彫刻」であった。すべてのものが芸術家である。バスの運転手も看護師もどんな職業もそれぞれの技巧を持っていて、彼らが作るのは「社会」という彫刻であるという考えである。
 大切な人と一緒に平穏に暮らすこと。家族の為に働くこと。そこにも確実に上記した「技巧」が振舞われているだろう。そしてそれはとある場所では平穏で<ふつう>と形容されよう。だが、それを構築し、維持することにはどれほどのエネルギーが必要だろうか。また、それはたった一人では成しうることの出来ない<彫刻>だ。

 作品単体だけではなく渡邊の滞在制作そのものに、<生きる>ということを強く考えさせられた。一人の人間がご飯を食べたり、寝床を確保したり、周りの人間と関わりながら何かを作るさまは、生活の基本形の縮図のように感じた。
 今後、渡邊トシフミが<彫刻>する人生はどういったものだろうか。そして、美術家としてどのような<うつくしいもの>を制作してゆくのだろうか。

(本文中敬称略)

 
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