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松本力インタビュー

「With or Without You」(2008)

客観的なものづくりは演劇から


藤田
ちからさんは、例えばプロモーションビデオをつくるという仕事、とか、トーキョーワンダーサイトの関係で六本木トンネルや駒沢公園の壁画を描く仕事、とか、「人から頼まれて作品をつくる」ことが多々あると思います。
作品を「自分の意志をつくるとき」と「頼まれてつくるとき」って意識が違いますか?
特に映像なんて、ひとりでつくれないから大変じゃないですか。

松本
僕の映像への関心というのが、映像だけでないんですね。
絵で映像をつくるといったときに、絵を描いているだけじゃ聞こえない、絵を描いている時には聞こえている、聞こえない「音」を表現したい。そのためには、自分だけの力ではなくて、周りにある全部、いまそこにあるものをつかう。
そうやって、他者も他者の想像も含めて、見えない聞こえないなにかとコラボレーションし、「映像作品」をつくりあげていくのです。

藤田
作家さんと話したり、作品を見ていると、結構自己中心的な人とか作品って多いんですよ。
自己完結していたり、何とも混ざりようがない、見せる場も限られている、というような。
だけどちからさんの作品って、そのへんのバランスを心得てますよね?
「ちょっとちからさんの味が出過ぎ」とか「ここ直して」とか、言われることはないんですか?

松本
たぶんそういうことを言われて、というか、言われるようなことを自覚するような年ごろに、その練習として、演劇を10年くらいやっていたんです。

藤田
え?なんの演劇ですか?

松本
高校の時の友達に演出家がいるんです、彼はいま放送作家でもあると思うのですが。
僕は美大だったので「松本くん、ポスターを描いてくれ」って言われて、阿佐ヶ谷の劇場に貼りに行ったら、「今日出て」って言われて。
それからずっと10年くらいやってました。
彼が言うには「つねにバランス感覚を持つ」ということと、「モノゴトを見極めたキワ、エッジみたいなところで、穴に落ちそうで落ちないという感覚を持って、つねに自分のエネルギーを客観的に放出するべきだ」と。

藤田
え?どういう意味ですか?

松本
僕は子どものころから少し変わったところがあったので、人に感情を伝えようとしても、額面どおり受け取ってもらえないことがあったんです。
言葉が不適当、うまく言えないというのではなく、感じているものが他人に比べて変だったようで言葉も変になるというような。
そういう自分を分かっていたけど、「内面を客観視する」というバランスの取りかたは、演劇を通じて知りました。
自分のことを出すけれど、「相手の中に自分を見る」という手法を、演劇の中に感じたのです。
例えば、絵や映像の仕事を請けたときに、相手のことを聞くというのはもちろんですけど、相手の頭と自分の頭の中間に浮かんだものを見ようとする。
そうやって、お互いが「分からない」と思ってるものの中間に、答えを見つけていくのです。

藤田
そういうバランスを持つって、すごいですよね、できないですよね。

松本
子どものころから、やりなさい、やってもいいんだよ、って言われてやったり、あるいはできなかったりして終わることもいっぱいありますよね。
そのとき既に自分がイメージを持っていて、そういうものを自分で感じられるようにいつも用意することができれば、相手に何を言われても僕もそれに答えることができる、ということだと思うんです。

 
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