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國府理インタビュー
《ROBO Whale》の映像を見る (c.) Osamu Kokufu  撮影:表恒匡


 
 
 
 
 
  (c.) Osamu Kokufu

海に戻れなくなったクジラ《ROBO Whale》って、私たちのこと?

友利
今回アートコート(大阪)に出品されている《ROBO Whale》は、大きいですね。

國府
全長7.7mです。クジラの頭はフォルクスワーゲンの前部分を切断して作りました。
背骨はブルトーザーのクローラーです。あばら骨とひれは、オリジナルです。


友利
残酷な現実に打ち負かされたクジラが、眠っているようで、悲しいです。

國府
これには、ストーリーがあるのですよ。
向こうにドローイングがあるでしょう。
あれには、ちゃんと順番があるのです。
《ROBO Whale》は元々、「大阪アートカレイドスコープ2008」に出品する際に計画した作品で、
その時は東横堀川に掛かる高麗橋の下で、半分が砂に埋もれている姿で展示しました。
ずっと昔に海抜が高くて、現在の大阪市の大半が海の底にあった時代があり、そのために工事現場でクジラの骨とか出てくることがあるのです。それが、陸に閉じ込められて海に戻れなくなったクジラの姿に思えたのが最初の動機です。
動植物の生態って、海水面の高さで大きく左右されるのだと改めて考えさせられました。


友利
かつて、大阪は海だったのですね。

國府
僕達は今、当然のように高架になった高速道路を走っていて、空を飛んでいるように錯覚したりする。
でも、その場所は地球の気候変動で再び海中に沈んでしまうかもしれない。
そして、道路とか車とかも、地層の中で化石のようになってしまうかもしれない。
陸地に閉じ込められたクジラの「昔に戻りたい」という情念が、地層の中で自動車の部品を集めてきます。
その結果、元のクジラの形が鉄で置き換わります。
クジラは、せっかくクジラの姿として現れることができたんだけど、そこはただの砂漠で…。
陸地を泳ぐことはできないから、プロペラとエンジンを使って海を探して飛んで行くことになります。
昼も夜もずっと。ドローイングにある旅の道連れの若者は、海の方向を示すイメージです。
最後に海にたどり着き、若者を降ろすんだけど、海には入らない。そのまま飛び続けているだけ…。


友利
鉄では海に入れないから?

國府
そう。想いによって手に入れた体は鉄の機械だから、そのまま飛び続けるしかない。
海にたどり着くものの、復活したものの、海の上を旋回して去っていくことしかできない。
この物語との関連で、今回はクジラの頭を大阪湾の方に向けて展示しています。
「カレイドスコープ」の時はエンジンをかけてプロペラを回すイベントを行いました。


友利
どこかアイロニーを感じさせる物語ですね。

國府
《ROBO Whale》にしても、ストーリーは架空のものだけど、その一部は現実と繋がっていますから。
作品の素材は工業製品だし、実際に使われてきた機械でもあるのだし。
そういう意味で、現在の日本の社会の問題点とも接していますね。
もちろん、アイロニーだけを強調するつもりはないのですが。

(c.) Osamu Kokufu  

友利
すごくロマンチックなイメージの裏に、文明を持った人間の悲しさが隠されているんですね。
これからの國府さんの物語の展開も楽しみです。

國府
今年は、群馬県立館林美術館の「エコ&アート」という企画展(7月4日〜9月23日)と、
神戸ビエンナーレ(10月3日〜11月23日)に出品する予定です。
どちらも大型の新作を出品するつもりで準備を進めています。


群馬県立館林美術館に出品する《ティピカル・バイオスフィア》のこと

友利
このインタビューが掲載される時には、館林美術館の展覧会が始まっていますね。
どんな作品になるのか、少しお話していただけませんか。

國府
群馬に出品するのは《ティピカル・バイオスフィア》というタイトルで、
直径5m、高さ4mの温室の中に芝生の丘をつくり、中央に一本の立ち木を植える作品です。
アメリカのアリゾナで1990年代に行われていた「バイオスフィア2」という、完全な人工生態系をつくる実験がモチーフとなっています。


友利
確か、人類が宇宙に移住するための実験ですよね。

國府
この実験、当初は100年計画だったのが、たった2年で破綻してしまうのです。
中には8人の科学者が暮らしていたのですが、酸素不足や食糧不足という現実問題が心理的な対立を生み出してしまって、継続できなくなっていった。
ただ、それは人工生態系という特殊な空間でのみ起こることではなくて、現在の地球規模での環境問題や食糧問題、宗教的な対立と同じ問題なのではないかという疑いを持っています。
バイオスフィアが小さな地球なのではなく、地球こそが大きなバイオスフィアではないかという疑問です。
現実の様々な問題は、環境を完全にコントロールできるという人間の思い上がりから始まっているような気がします。


友利
人類が宇宙にまで進出していく行為も思い上がりと言えますね。

國府
地球環境を考えた時には、そうした肥大化した欲望の達成ではなく、
譲り合う気持ちをお互いに持つ必要があるのではないかと思っています。
それで、今回の作品は楽しげな空間で、皆が幸せになれるような場所をイメージして作りました。
僕は現実問題を告発したいのではなくて、こうした問題を考えるための出発点を示したいのですから。

友利
ますます見たくなりました!
今日は、展覧会前のお忙しい時に、ありがとうございました 。

 
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