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今津景インタビュー

絵の具が すべて


立石
今津さんの作品は透明感のある鮮やかでのびやかな色彩も印象的ですね。

今津 
そうですね、絵の具はチューブから出したそのままの方が彩度を高く表現できる。
絵の具ってどうしてあんな色がつくれるんだろうって不思議じゃないですか?油絵の具自体の色がすごく好きなんですね。彩度と透明感を出すために厚みのある絵は描いてこなかった。
でも最近は、構造や抜き取ってくるテーマなどが昔に比べて複雑になってきていて、絵の中の空間に奥行きを持たせたいと思っています、とくに新作の《中庭の奥》は絵の具を重ねて厚みをつけています。


《中庭の奥》 2010 
H162xW162xD4cm(S100)
oil on canvas
Courtesy of YAMAMOTO GENDAI

立石 
確かに。黄金色の草に覆われた丘、近づいてみるとかなり細かく色が重ねられているというのが分かります。そして今までものに比べるとカサカサしている印象があります。

今津 
これは下絵を完成させた時点で、カサカサな質感がいいに違いないと直感で思ったんです。乾いた場所を描いているから。描かれた状況に合わせて仕上がりを吟味します。
このように彩度が中間ぐらいの色味も最近になってから使うようになってきたんですが、 彩度が高い色を使うよりも難しくて複雑に絵の具を使うので苦戦しています。それがまた楽しくて、最近はこういう色味のものを描きたい気分です。

視点、空間意識の変化

立石
他に最近の変化で何か気づいていることはありますか?

今津 
昔は「遠くの風景」を描いていたのだけれど、今は比較的近距離の世界も描くようになってきたと思います。とくに《チョコレート》は視点が近いですね。



《チョコレート》 2010
H145.5xW145.5xD4cm(S80)
oil on canvas
Courtesy of YAMAMOTO GENDAI

立石 
確かに、昔の作品と比べると《チョコレート》はだいぶ印象が変わりますね。
昔の作品は、ぼんやりピントのぼけた風景の中に光がスカッと入っていて、そのコントラストが印象強いですが、最近の作品は、ピントが合う部分、合わない部分が共生していてまるでレンズ越しに見ているような感覚がします。

今津 
私は絵を描くとき光を意識していて、ハイライトだけに輪郭をつけるというやり方をしてきました。するとそこが浮き立つ部分となって、ほかの背景がぼやけるようになります。見る人にとっても、まずは光が目の中に入り込んで印象を与えると思いますが、それからその奥で起こっているドラマが二次的に見えてくるといいなと思っていました。
例えば、最初の入り口は「この絵は黄色いなあ」「きれいだなあ」とかその程度でもいいんです。それからよくよく見ると、きれいだと思ったものが本当はゴミの山だったとかスラム街のような光景だったとか。そういう「時間差」を目指しています。
今までは画面上にはその2つの層があればよかったのです。ハイライトの部分とそれ以外、手前と奥、というような。
でも最近ではもっと複雑に空間の奥行きや幅を出したいと試みています。これは絵の具だからこそできることなんですよね。プリントアウトした下絵ではできないことだから。
 
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