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ベルリンアート便り
   
  総会の様子。多数決で企画を決める


ベルリンアート便り 第7回 
NGBK (ノイエ・ゲゼルシャフト・フュア・ビルデンデ・クンスト)

 1968年、ドイツ国内では政治、科学、労働、文化など、さまざまな側面の構造改革へとつながる社会運動が勃発し、激動の時代となった。そして、この運動はもちろん人々の芸術に対する意識にも影響を及ぼすこととなった。

会員のだれもが企画立案可能なNPO組織

 NGBKは、新しいクンストフェライン(第6回参照)を求めていたアーティストや、アートに関心のある人々によって1969年に設立された。従来のクンストフェラインと大きく一線を画したのは、ワンマンのディレクター制度の廃止、そして、社会問題とアートを融合させるという姿勢、この二点であった。設立から38年目の現在も、彼らの活動は色あせることなくベルリンで活発に行なわれている。
たいていの組織には、キュレーターやディレクターのような全体のプログラムをコントロールする役割を担う人物が一名もしくは数名おり、彼らによってプログラムは特徴づけられていく。しかし、NGBKにはそのような人物は存在しない。クンストフェラインの全ての会員が、キュレーターやディレクターになれる権利を持っており、企画に携わることが可能なのだ。年に一回行なわれる総会で、会員は実現してみたい企画についてのプレゼンを行い、会員の多数決で企画が選ばれる。そして、その内容に興味ある者を募りニ〜五名ほどのワーキング・グループを結成し、毎回異なったアイデアを実現させていくのだという。

 1991年から組織の総合ディレクターを務めるレオニー・バウマン氏に話を聞いた。


アートと社会問題の融合を目指す

Q.メンバーのほとんどはアート関係者ですか?

A.みんながみんなアートの専門家ではありません。異なった分野の人々、たとえば学生、ジャーナリスト、公務員などもいますし、他のアート組織に属する人、アーティスト、キュレーターなどもいます。

Q.一つの展覧会を作るのにどれくらい時間がかかりますか。

A.いくつかのワーキング・グループは定期的に動いています。彼らの場合は、大抵一年、短いと三〜四ヶ月くらい。しかし、私たちが行なうほとんどの展覧会は一時的に結成されるワーキング・グループで作られていきます。たいていは一〜三年ぐらいかけて準備されます。

Q.あなたの仕事は彼らをまとめることなのでしょうか。

A.そうです。このクンストフェラインはマネージメントがとても大変です。100人ものディレクターがいて、かつ、その都度変わっていくのを想像してみてください(笑)。我々は、今まで展覧会を作ったことのない人、カタログを発行したことのない人たちが含まれるワーキング・グループをマネージメントしていくことも多々あります。私を含めこの事務所の5人でその作業をします。彼らをプロフェッショナルにするのが私の仕事です。

 

 このようなワーキング・グループによって、セクシュアリティ、移民問題、フェミニズム、人種差別、HIV、失業、など様々な社会問題を題材とした展覧会が生み出されてきた。
筆者が取材を行なった時期(2007年8月)は、カティア・アイデルによる『トルコの発展』と題された写真展を開催していた。ドイツには沢山のトルコ系移民が存在し、このNGBKのビルもトルコ人が多く住む地区の大通りに面している。トルコ人と言えば、メディアでは移民問題の種、イスラム教、テロリズムの温床といったネガティブなイメージが強調されているのが現実だ。トルコは20世紀の前半に近代化政策が行なわれ、政治的、社会的に大きな変化を経験した。アイデルの作品では、都市の中で近代化された部分と、伝統的な部分どちらも色濃く共存している点が強調されている。伝統行事の風景、町並み、人々の姿、建築など、人々の日常を通してトルコの現在を見せようとしている。

 

Q.社会問題を取り扱う上で、どのようなことに重点を置いていますか。

A.1960年代の設立当時、社会問題とアートを融合するということは、どの組織でもまだ実践されていないことでした。しかし、フェミニズム、HIV、移民問題などは、本当にどの社会も抱えている問題で、自分とは関わりのないこととして通り過ぎることはできないはずです。

NGBK外観。一階は本屋、その奥にギャラリーが続く
レオニー・バウマン氏
ギャラリー内
シンポジウム風景
気候が良い時期は中庭で映像上映会なども行なう
ギャラリーの手前は本屋になっている
我々は、常に「物事の後ろ」を見るようにしています。いつもそこで何が起こっているのか、人々が何をやっているのかを注意深く見るのです。そして、それについてアートやアーティストが何を言えるのかということを追求していき、政治的な社会的なディスカッションへと広げていきます。
全ての企画は、展覧会と平行して、レクチャーやガイドツアーなどを含んでいます。そのために、他の組織とのコラボレーションを常に必要としています。次に行なう展覧会では、ヨーロッパ学を先攻するポツダム大学の学生と協力しています。彼らは実に真剣に取り組んでくれています。このようなネットワークが、アートとその戦略に興味がある人々を結びつけ、多くのアイデアを一つの大きな車輪で動かすことを可能にするのです。多くのアーティストが、科学や他の分野について興味を持っています。また、様々な層の観客が観にきてくれますし、レクチャーはとても興味深いものとなっています。
そして我々のオープニングパーティは、いつも違う層の人々で賑わいます。見たことの無い人が入れ替わり立ち替わり来て、アーカイブに協力してくれたり、プレゼンに協力してくれるなど密に関わってくれる人もいます。今回はトルコの写真を展示していますが、我々の展覧会に来たことのない多くのトルコ人が、次もまた興味を持って観にきてくれることを願っています。


Q.社会におけるアートの役割というのはどのようなものだと考えていますか。

A.我々は、アートとは、問題を乗り越え、より良く、すばらしくする機能を持っていると考えます。アーティストは興味深い主題に対して作品を作り、それに対して私たちの役目は、彼らの作品やパフォーマンスを見せるステージを作る、まだ誰も取り組んだことのない領域に分け入っていくことだと思っています。
例えば、一昨年前にトランスセクシャルに関する展示をしたのですが、アーティストは作品を作りアートの未来に取り組むと同時に、トランスセクシャルという問題に取り組みます。それらは普段、タブ−とされ、語ることを拒んだり、病院でしか聞くことのないものです。このようにして発表された作品は、観る者を「アートの中で」今まで経験したことのない問題に直面させ、深く考えさせます。また、同じような問題を抱える人々に対しては、より自覚を与え、一人じゃないと勇気づけることもできます。我々はいつも常識や観衆といったものを飛び越え、公に向けて放つアイデアを探しています。そして、それを観る人々は新しい考え方を得ることができたり、生活に反映させることができるのだと思います。


 
 
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基本情報
名称:   Neue Gesellschaft fuer Bildende Kunst e.V
住所: Oranienstrasse 25, 10999 Berlin Germany
電話:   +49.30.61.65.130
ウェブサイト:   http://ngbk.de/

著者のプロフィールや、近況など。

木坂 葵(きさか あおい)

1978年生まれ。神戸大学文学部卒業。
在学中よりNPO法人大阪アーツアポリアにてコーディネーターとして勤務。その他、関西を中心に美術の裏方業務経験を積む。
2006年10月よりドイツ・ベルリンに滞在中。

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