topspecial[その形容詞を待ちわびる−小川良子]

 主人の不在で水分を失った食パンのようになった家屋とは反対に、裏庭は生命力を増していた。草は膝の上まで生い茂り、あらゆる種類の花が咲きみだれ、立ちこめる香りでむせ返るほどだった。塀のわきから入るには、折れた金柑の枝を持ち上げてくぐらなければならなかったが、やっと通りぬけた瞬間に頭から粒状の小さな花びらをどっさりかぶることになった。それから一歩踏み入るごとに足もとが不安定になり、それは花の香りと草木の勢いに威圧されたせいかも知れず、庭の中央まで来たときには、太陽に照らされたカタツムリよりも心細い気持ちになって、立ち尽くしてしまった。

小川良子 思いつきで書いた断片的な小説より


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