top\special[わたしのまちのアート/京都]
わたしのまちのアート


京都府
タバコの煙と、空の色。
きしむ廊下と、窓の景色。

TEXT 草木マリ


京都芸術センター(外観)いろんな形の窓が素敵。
 
 
 
談話室へ続く階段。ぎしぎし。すりへった具合がぐっときます。
京都芸術センター
グランドのベンチと談話室

京都府京都市中京区室町通蛸薬師下る山伏山町546-2
http://www.kac.or.jp/



私の京都でのギャラリーめぐりのコースのメインルートは、京都市内のほぼ中央を東西につらぬく三条通り。この真下を走る地下鉄東西線でいえば、東の「蹴上(けあげ)」駅から西の端「二条」駅まで、てくてく歩いては点在するギャラリーをまわります。端から端まですべてのギャラリーをまわろうと思うと、さすがにいち日仕事。天気と体調が万全でないと正直つらい。まま、はしょったり、長いところは地下鉄を使ったり。京都・滋賀に住む美大生さんたちは、授業のない日には自転車やバイクをつかって、これらをめぐっているわけです。

私は、西の方におめあての展覧会がない時には、たいていは力つきて「二条駅」のふたつ手前、烏丸通りを少し北へ下った「京都芸術センター」を終着点にしています。
今回ご紹介するのはこの「京都芸術センター」。しかもギャラリーやホールではなく、私の愛用する「ひと休みスポット」です。

この「京都芸術センター」は、1993年に統廃合された元明倫小学校(1931年に竣工。それ以前はもっと東にあったようです。開校は1869年頃)の校舎を、趣はそのままに(多少の改築をしたのち)2000年にオープンした施設です。歴史と風格、地域の人々の育む心意気を感じる、素敵な建物なんですよ。

ここには南・北ふたつのギャラリーと、ダンスや芝居の公演にも使用できるフリースペース、講堂、78畳の畳敷きの大広間、屋上にてんとのっかったようなお茶室の和室「明倫」などがあり、現代美術から古典芸能まで、さまざまな芸術に触れる事ができます。また、教室を利用した制作室や図書室、カフェもあります。制作室は12室あり、所定の審査をとおると最長3ヶ月間使用することができます。アトリエとして、稽古場として、プロジェクトルームとして、さまざまな用途でたくさんのクリエイターが利用しています。
つまり、ここを訪れる客層はというと、展覧会や公演を観に来たお客さんだけでなく、美術作家やダンサー、役者、制作のひと、通りすがりのカフェのお客さん、はたまた明倫小学校を懐かしむ卒業生…と、老若男女、多彩な人々の共有空間となっているのです。
と、説明はこのくらいにして…(詳しく知りたいかたはこちら→http://www.kac.or.jp/

さて、おすすめ「ひと休みスポット」は2か所。南校舎2階にある「談話室」と、北校舎と南校舎の間にひらけた「グランドに面したベンチ」。
もちろん1階のカフェを利用してもいいのですが、いかんせん、よう混んでおります。
故に、ここでひとまずテイクアウトの飲み物・食べ物を入手し、「ひと休みスポット」へ。
その時の気分に応じて、「談話室」と、「グランドのベンチ」を選びます。



「忘れないうちにメモメモっ」ってかんじでしょうか。

〈談話室〉
こちらは屋内なので、季節、お天気に左右されることなくくつろげるスポット。飲食はOK。喫煙はNGです。
教壇には大きめの机がひとつ。あとは20脚ほどの小さな机と椅子が、ふたつずつ並んでる。懐かしい教室のイメージ。自習室のようなスペースです。
平日のお昼どきには、近くのオフィスからお弁当持参のOLたちで華やいだり、もくもくと何かに打ち込むひとや、少人数のミーティングなども見かけます。
企画書をねったり、シナリオを書いたり、公演の打合わせをしたりしているのでしょうね。
たくさんの人が出入りする施設のわりに、2階はいたって静か。階下や窓のそとの人の気配の具合がちょうどいい。
廊下の床の軋む音、遠い声、静かな教室。懐かしい窓枠の向こうには、間近にビルの背と小さな空。
この違質感が、時間軸のぶれを調整してくれるのか、現代に疲れるわけでもなく、懐古的になるでもなく、うまく「いまここに」いる自分に集中させてくれる。
カフェで買ったシナモンミルクティとレーズンサンドクッキーを味わいつ、小さなノートをひろげて物書きをしてみたり、ぼんやり黒板の消しあとを眺めてみたり。後ろの席の文字を綴る音、ひかりの中に舞う小さな埃。突っ伏して腕の間から見る窓の外。豊かな時間だなあ。



談話室(入り口) 10:00〜20:00まで利用できます。


黒板に教卓。鞄掛けのフックが泣かせる。引き出しではなく天板をひらくテイプ。おされ。



グランドに面したベンチ。北校舎が見える。


煙草とコーヒーでぼんやり。おもいついたこと、ぽつりぽつりノートに。


北校舎の制作室に灯りが。どんなことをしている人の部屋でしょうかねえ。


ベンチから校舎とビルと空。吹き抜けっぽいグランド。

〈グランドのベンチ〉
気候のいい晴れた日や、趣きも豊かな雨のそぼ降る夕暮れ前、談話室で煮詰まっちゃった寒い日の午後なんかは、こちらがおススメ。オープンエアーなので寒い日やどしゃ降りの日には長居はできませんが、飲食・喫煙はOK。
グランドでテニスする人や、北校舎と南校舎を行き来する人、鼻をすすりながら駐輪場から事務所へ足バヤに通り過ぎてゆく人たち。スクロールする画面を見ながら、ベンチに身を沈めて煙草を吸う。くゆってゆく煙を目でおううちに、校舎とビルに切り取られた四角い空にとどく。隣のベンチに火を貸したり借りたり。顔見知りに片手をあげたり、会釈をしたり。肩をすくめてあつあつのカプチーノをすするのもよし。
人も空気も、自分の身体と心を通り抜けていく感じが素敵。

なんというのか、こうも濃い種類の人間がひとつところで、好き〜に過ごしている。
ジャージを着た劇団員と、しゅっとしたペインターが、煙草を吸いながら釣りの話しなんかしてる。ボランティアスタッフのおじさんがセンターのスタッフとなにやら立ち話。なんか、気持ちいいじゃあないですか。
ゆるやかに触れあう感じ、知っているひとも知らない人も、これから出会う人も、ここでしばし蜷局をまく。
同じ場所で、同じモノをみたこと。静かで頼もしい共感を肌にに感じる、私の好きな場所です。

京都の町といえば、言わずと知れた「碁盤の目」。
南北にはしる通りと、東西の通りが十字に交する町です。
小さな町ですが、大小たくさんの通りがはしっています。
それぞれの通りには、それぞれの特徴や性格があって、あてもなくお散歩してても退屈することがありません。
なにがいいって、けっこう歩いてまわ れる距離なんですよ、中心部は。現代美術観るだけが「アート」ってやつじゃない!京都へ来たら、ぶらぶら歩いてお気に入りの通りを見つけてみてください。
伝統と同時代の産物、人の手が生み出してきたもののすべてが愛おしく感じる場所が、きっと見つかりますよ。
(5月には京都市内のギャラリー合同プロジェクト「KYOTO ART MAP」あり!アートマップ片手に京都の町を歩きたおせ!)
   


著者プロフィールや、近況など。

草木マリ(くさきまり)

1976年京都府生まれ。
1999年成安造形大学造形学部卒業。
京都芸術センターで1年間のアシスタントスタッフを経て、
現在、大阪成蹊大学芸術学部綜合芸術研究センター勤務。





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