《white》ミクストメディア、385×547.5×456cm、2012年

《blue》ミクストメディア、135×187×827.5cm、2012年
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展示台に据えられた大きな青い立体。水色から群青色や紺色まで、明暗が微妙に異なるパーツの集積がスポットライトの光に照らされるさまは、ラピスラズリの原石を彷彿させた。
近寄づくにつれ、プラスチックのバケツや三角コーン、ブラシの柄、ゴムホースの一部が見え隠れしていることに気づく。なんのことはない。宝石の輝きを放つこの作品は、100円ショップやホームセンターで簡単に手に入るような、身の回りにあふれる日用品で構成されている。
なんらかの用途を持ってつくられた既製品。無数に存在するなかから荒木由香里によって選ばれ、ここに集められた品々は、本来の機能を奪い取られるのと引き換えに、バケツだった時、あるいはゴムホースだった時には持ち得るはずもなかった新たな美しさを手に入れる。
「青色と書かれている物ばかりを集めた」と荒木が語るこの作品《blue》は、モノトーンの球体シリーズの一つ。それまでは、持ち主の記憶が宿る履き古された靴や、店の片隅でほこりをかぶっていた玩具などを材料に制作してきた彼女だが、2010年の個展「circus」で、古さにこだわらず、サーカスの楽しい雰囲気や躍動感をギュッと固めてくす玉にしたような作品を発表したことが転機となった。それ以降、色をモノトーンにしてさまざまな球体シリーズを展開している。
一方、展示室の天井からつり下げられた7体の白い作品は、結婚式でチャペルに飾られる装花のようであり、その巨大さと華やかさに圧倒される。《blue》とは対照的に、こちらは約5mの高さにぶら下がっているため、何が使われているのかはっきりとは捉えきれない。そのせいか、おびただしいリボンを垂らして空間に浮かび上がる姿は、得体のしれない生命体が宙を漂っているかのようでもあり、美しさの裏側におどろおどろしさを湛えている。
荒木によって何かであったものが何かでなくなる瞬間、名前を失い、何かであることから解き放たれた物たちは、それぞれの色や形の本来の美しさや不気味さを際立たせ始める。この時何でもないものは、見る者の内側で何ものにも変換されうることで、これまで私たちが持ち得なかった価値観を創造するにちがいない。

《white》ミクストメディア、423×560×11.3cm、2012年 |

《yellow》ミクストメディア、129.5×115×130cm、2012年 |
このページの写真は全て、撮影:尾崎芳弘(STUDIO WORK)