topreviews[「SHIFT←311」/広島]
「SHIFT←311」
3.11の衝動
TEXT 友利香
会場風景

「311」という数字が特別な事象を表す固有名詞となって半年が経過した。この「SHIFT←311」は、画家たちのその瞬間の抑えきれない衝動が結集した勢いが感じられる展覧会だ。

BOXは、手前から高橋大輔、福川淳、小左誠一郎。
奥に見えるのはジャンボスズキの《Homework of the summer vacation》(48枚1組)


高橋大輔《無題「河」》(正面)

高橋大輔の絵の具の盛りと色彩感覚には、何事かへの揺らぎや「漂白」という言葉はない。むしろ絵の具の勢いに拍車がかかっている。


福川淳《御神木》(2点1組)

福川淳の《御神木》は、23×16pの非常に小さい作品だが、BOX内に十分過ぎるほどの非常に近づき難い畏敬を発している。


右)アメリア・マルチダ・フランク・ムニョス《GENKI DESKA》左)椛田ちひろ《不祥|Anonymous》

ドイツ出身のアメリア・マルチダ・フランク・ムニョスは描画も蓮の葉(立体)も和紙を使用して制作し、仏の世界を表現しているのも印象的だ。

椛田ちひろは、鏡の鏡面に透明樹脂で描画をしている。見えるようで全く見えない混沌とした表面は、美しくもあるが、押し寄せる波に呑み込まれた命を探すかのような悲哀、「濁」にのみ込まれた命の揺らめきを覗かせる。

アメリアと椛田のBOXが隣合わせになっていることは非常に効果的に思える。蓮は泥池で生息するものだから。


O JUN《奥秩父》



手前は水戸部七絵《MickeyMichael》他 画像奥は、苅谷昌江《一万年前の一万年後》
O JUNの作品は筆致が非常に簡素であるが、逆に作家の精神の奥深さを感じ取ることができる。「奥秩父」という地名、赤い山肌、中央部に上がる狼煙のような煙…など掘り下げ始めると際限がない。

苅谷昌江
《一万年前の一万年後》というタイトルから時代を特定すれば、今からおよそ1万年前は縄文時代、この風景は"今"である。しかし風貌からしてここに居る女性は縄文
人で、「ドラえもん」「マリオ」「ウルトラマン」「鉄腕アトム」などの化石化した頭部を繋いだ飾りを首に付けている。

言うまでもなく、ドラえもんは22世紀から来たネコ型ロボットで国民的アニメアイドル、マリオは今年誕生30周年を迎えたゲームキャラクターであり、「人口太陽プラズマスパーグ」や「胸のランプ」(=宇宙エネルギー)をキーワードに持つウルトラマンと、名前に「原子力、核エネルギー」という意味を含む鉄腕アトムに至っては、両者共エネルギーがキーワードとなる国民的ヒーローキャラクターである。しかしこの女性は、近代の文明社会終焉への恐怖や敗北を告げるのではなく、再構築へ向けた原初の女神なのだろう。

この展覧会は企画・作家選出に加えて、会場構成の良さも記しておきたい。本展のキュレーターは仲世古佳伸。

彼は「3×6(約0.9×1.8m)」というBOXの空間に拘った。この畳一枚分の空間は日本人に馴染むサイズであり、自己と対面し自己を見据えるサイズなのだろう。観客にとっても作家の思考を受け入れやすい大きさであると思われる。BOXの配置と壁面とで構成された会場全体の雰囲気も評価できる。






「SHIFT←311」
2011年10月1日―11月13日
ARTCAFE GBOX(広島市)

 
著者のプロフィールや、近況など。

友利香(ともとしかおり)

宇部初の「アンデパンダン展」開催中です。
あいだだいやさんも出品してくださっていて感激しています!
http://ube-shintencho.com/art.html





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