topreviews[月見の里アートプロジェクト《Instant Scramble Gypsy》/静岡]
月見の里アートプロジェクト《Instant Scramble Gypsy》
どまんなかセンターで行われたイベントの様子


どまんなかセンター 子うさぎホール


「YAH!YAH!YAH!わたしの袋井写真展」展示風景


「YAH!YAH!YAH!わたしの袋井写真展」展示風景


「YAH!YAH!YAH!わたしの袋井写真展」展示風景


「YAH!YAH!YAH!わたしの袋井写真展」展示風景



アートがアートを超える瞬間
TEXT 田中由紀子

 12月3日〜25日の21日間限定で、袋井市中心街にある空き家にオープンした「どまんなかセンター」。アートセンターと思っていた私の目に飛び込んできたのは、学校帰りの小学生が館内を走り回り、中学生がゲームをし、近隣の住民が差し入れを手に集うといった予想外の様相だった。
 ここをプロデュースするのは、中崎透、野田智子、山城大督からなるアーティストユニット、Nadagata Instant Party。彼らがプロデュースする写真展が市内にある月見の里学遊館の全館を使用して開催されることになり、それに伴いできなくなる貸し館業務を遂行するための別館として設置されたのが、この「どまなかセンター」だという。
 彼らが袋井市全域を巻き込んで展開するアートプロジェクト《Instant Scramble Gypsy》について、広報物にある通り上記のように捉えれば、月見の里での写真展がプロジェクトの核と理解できるのだが、じつは写真展の開催はあくまで「どまんなかセンター」を開設するための口実に過ぎない。つまり、写真展の開催→貸し館業務を代替する施設が必要→別館「どまんなかセンター」の開設、というストーリーと、そこに人々が関わり起こる出来事そのものが、彼らのプロジェクトというわけだ。
月見の里で行われる「YAH!YAH!YAH!わたしの袋井写真展」は市民からの公募による写真展で、集まった写真を一堂に展示して、そこに袋井的なものを見出そうというもの。Nadagata Instant Partyプロデュースと謳われながらも、そこに彼らの作家性や有名性は微塵もない。そこにあるのは、市民参加による写真展という、一般の人々には無自覚な分受け入れやすいアートである。
 一方「どまんなかセンター」では、もちつき大会や演奏会などのイベントと共に、アート関連のトークやワークショップ、展覧会も行われてはいたが、そこにも彼らの作家性や有名性はほとんど見当たらなかった。アートとアートでないものが混在するこの場所に集まる人々が、プロジェクトの意図をすべて理解しているかというとそういう人ばかりではないようだが、月見の里の写真展の参加者や来場者よりははるかに、ここで起こっていることをアートと意識し、自覚的に参加していたことは確かだろう。多くの人が各々の理解の下、このプロジェクトの中で起こる出来事を楽しみ、登場人物のひとりとなって自分の役割を遂行しているように思えた(かくいう私も、企画運営するウェブサイトのイベントを機にここを訪れ、このプロジェクトのことをこうして伝えるという役割を全うしている)。
 作品らしいものが見当たらないばかりでなく、作家性や有名性が希薄なこのプロジェクトを「アートといえるのか」と感じる人も少なくないだろう。Nadagata Instant Partyは月見の里での写真展というストーリーを仕立て、「どまんなかセンター」という枠組みをつくったに過ぎないといえばたしかにそうなのだが、そこで起こりうる出来事を緻密にしかけ、人々を巻き込むことで、近隣住民にとっての非日常の21日間をつくり上げた。これは、アートという枠組みの中だからこそ成立することといえるのではないか。
 期間が終わればそれで終わりというアートプロジェクトが多い中、今回「どまんなかセンター」を中心としたコミュニティが生まれ、終了後もこの場所の継続を望む声が多く上がったことは、Nadagata Instant Partyも予想していなかったらしい。今後、彼らの存在なしに、この建物を活用してコミュニティを継続させていくことはそう簡単ではないだろう。しかし、アートがアートの枠組みを越えて、人々の内側に生きるよりどころを立ち上げる瞬間を目の当たりにした気がしている。
どまんなかセンター外観



月見の里アートプロジェクト《Instant Scramble Gypsy》
2010年12月3日〜25日

旧中村洋裁学院・月見の里学遊館(静岡県袋井市)
 
著者のプロフィールや、近況など。

田中由紀子(たなかゆきこ)

美術批評/ライター
http://artholicfreepaper.blogspot.com/




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