topreviews[新次元 マンガ表現の現在/クリテリオム79 下道基行/茨城]
新次元 マンガ表現の現在/クリテリオム79 下道基行

めんどくさい行為の果て

TEXT 藤田千彩


BECK会場風景


シュガシュガルーン会場風景


ガイドマンガ

「どうして私がマンガが苦手か」ということを語るべきか、「どうして文字を書くのか」ということを語るべきか。
そういう自己問答を重ねるために、このレビューを書くのではない。
しかし、一つ分かったことがあるから、このレビューを書くのだ。

「新次元 マンガ表現の現在」と名付けられた展覧会は、夏休み向け企画だろうと思われる。
私が行った9月でさえも、高校生ぐらいの集団がいくつも来ていた。
受付のおねえさんが昨年の「現代美術は楽勝よ。」展で流れていたNadegata Instant Partyの映画作品《学芸員Aの最後の仕事》に登場する人だということは、既に忘れ去られた過去かもしれない。
しかし2000年代のマンガを振り返ることより、昨年の展覧会の味を思い出すことの方が、美術ファンとしてはまっとうな行為だと自覚する。

そして彼女から渡されたのが、今回のガイドマンガ(マンガ仕立てになってる冊子)。
ぱらぱらめくりながら、会場の中へと進む。
展示されているマンガについての説明が、見開きで紹介されている。
サクヒンのセカイカンとかシソウとかいうものが、マンガで分かりやすく描かれているのだ。

会場にあるのは、原画を眺める「展示」、作品に登場する学校やライブ会場を再現する「インスタレーション」、立体を置いた「空間構成」。
美術用語に置き換えれば、おそらくこういう説明になるであろう。
美術館だから、という気構えが既に言葉を置き換えて理解しようとし、難しくとらえなくてはいけないという意識にさせる。
本当は美術館ではなく、デパートの催事場でも同じものを同じように並べてみることができるかもしれないのに。
そうは言っても、もともとのマンガをほとんど知らない。
だからガイドマンガを読みながら、私は展示物を眺める。
あたかも現代美術に初めて触れたときのように、「こうやって見るのか」と背中を押されるような気持ちで。

手元のガイドマンガがなければ、唐突にものが置かれた空間を理解できない、と思った。
そのマンガを読みたい、とまでは思わないが、こういうのもあるのね、と気付かされた。
ひと通り展示を見て、返却箱にガイドマンガを返すとき、きゅんとなった。


水戸芸術館の会場をコの字に曲がると、クリテリオムというプロジェクトの展示室がある。
そう、下道くんの展示を見に、私は来たんだった。
思い出して、会場に入る。

 


下道本人の祖父が描いた絵画が、親戚や知人などの家にわたり、置かれたその場所を写真にした作品シリーズだ。
私が引っ越してきたとき、私が住むビルの1階にあるギャラリーで展示をしていたから、見たことがある。

とはいえ、今回は中央に机があり、本が置いてあった。
「おじさんの絵は・・・」
といったように、祖父とその絵画作品について現在の持ち主のコメントが載っていた。

ん?
手元の本を見ながら写真作品を眺める行為は、先ほど見たマンガ展のガイドマンガと展示の関係性と同じに感じた。
しかも本に書かれた文章と、展示された下道の写真は、必ずしも同じ順番で並んでおらず、手元と壁と目が行ったり来たりしている。
「分かった!私は絵と文字を同時に並ぶと、理解できないんだ!」
個人的な意見で申し訳ないが、マンガが苦手な理由、文字だけを書き連ねる理由、美術という表面を目で楽しむのが好きな理由が、ぱっと分かった。

写真作品の下にキャプションがあるといったわけではない、ある意味親切な展示方法なのだろうし、作家はこういう表現方法をしたかったのだろう。
マンガを読むように、写真を読む。
私は不思議なつながりを手に入れた気がした。

新次元 マンガ表現の現在
2010年8月14日〜9月26日

水戸芸術館現代美術ギャラリー(茨城県水戸市)


クリテリオム79 下道基行

2010年8月14日〜9月26日

水戸芸術館現代美術ギャラリー第9室(茨城県水戸市)


 
著者のプロフィールや、近況など。

藤田千彩(ふじたちさい)

1974年岡山県生まれ、東京在住。アート+文章書き。半年以上ぶりに『美術手帖』書いてます、しかも秋元康のとこ。




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