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[「染める布 染まる空間」/福岡]
「染める布 染まる空間」
北九州市立美術館分館はリバーウォーク北九州(ショッピングモール)の5階と4階に所在している。
「染め」表現の今
TEXT 友利香
北九州市立美術館分館で、九州北部に縁のある染色作家7人の展覧会が開催された。
出品作品は75点。7人の共通点は卓越した技術だが技法・表現は7人さまざま、年齢も1936年生〜1985年生とさまざま。そして広い2つの展示空間の対照性など、見どころ満載である。
奥に白地に濃紺の田中嘉生の作品が見える。
第1室入り口真正面、白地に鑑賞者を飲み込むかのような紺色の線の束の作品群、田中嘉生(1951年生まれ)の作品から始まる。
この大きくうねる紺色の線は余白を、よりクリアに見せ「ここに存在しているもの」として強調する。
田中の図柄はグラフィック的で洗練された印象だが、濃紺と白、そして心憎いほど、ほんのわずかに差込まれた赤色が、否応なしに日本的情緒を掻き立ててくれる。
順路は、奥田民子(1936年生まれ)・澤田達雄(1956年生まれ)・和田健一(1941年生まれ)らの染色の伝統的手法の強み・凄みを前面に打ち出した絵画的な作品が続いていくが、入室と同時に鑑賞者に「この余白に何を見るのか」と問いかけるかのような、まるで外来生物の侵入を許さないような張りつめた展示空間を予感させる田中の作品を先頭に展示したことは、ドラマティックで印象的だった。
鈴木信康の作品 奥の壁の作品は布川博章。
第2室は一変し、手法は「染め」だが、現代美術のイメージを前面に打ち出した国籍不明の自由空間である。
鈴木信康(1940年生まれ)は、染めによる赤い立体を天井から吊り下げた。これはパオ(移動式住居)のような外観で、どこからか大陸の風が吹いてくる。
画像の奥の壁に見えるのは、布川博章(1982年生まれ)の作品。
布川は、現代社会に潜む諸問題を、テーマとは相反した黄色やピンクなど明るい色で表現。ポップで一見楽しそうな画面なのだが、実は…、といった裏読みをさせる。
今回の出品者の中では最年少の鳥谷さやか(1985年生まれ)。
「時間の経過を視覚的に表すことが、最大の関心」という鳥谷の作品の中には、次へとつないでいく命の時間が流れている。
鳥谷さやか《夏の記憶》 2008年 162.0×132.5p ろう染め、シルクスクリーン
鳥谷さやか《軌跡の行方》 2009 年 165.0× 125.0 ろう染め、シルクスクリーン
鳥谷さやか 《時の断片》 2008年 112.0×177.5p ろう染め、シルクスクリーン
葉脈のみでその形を示している植物が、「虚」の空間に立っている。枯れていく植物の背景(虚空間)には、ほのかに光が差し、「枯れる=終焉」という図式を否定する。それは結実し、実を落とし、種という形で生き残る次の姿を想起させる。
成長毎にその形態が著しく変化する蝶。飛び交い、発香鱗を撒き散らし、華やかでエロティックな生殖臭がする蝶は、どこか儚い「実(じつ)の生命体」として登場している。こうして植物の線は、単なる葉脈や輪郭としてではなく、あらゆる生物が生きようとする意志と尊厳の線として立ち上がり、過去から未来へつながる「時の間の生命体」として存在する。
鑑賞者はこの虚実の間で混乱し、「この画面を何かで埋めなくては」と焦るのだが、小さな滑車や記憶・軌跡の断片が、この混乱を鎮めてくれる。一呼吸し、ぐるぐると記憶の回路を遡るうちに、自身も時の間で確かに生きていると気付くのだ。
鳥谷の作品は、背景の奥行き・蝶の数や大きさなどで、伝わる印象が全く違う。
今後彼女は、年齢を積み重ねるごとにどう変化していくのだろうか。興味ある作家だ。
またこの展覧会は、染色の作品に不慣れな者も難なく染めの空間へと引き込んでいくような、展示の上手さにも好感が持て、非常に後味が良いものとなった。
画像提供:北九州市立美術館
「染める布 染まる空間」
2010年6月5日〜6月27日
北九州市立美術館分館
(北九州市戸畑区)
参加作家
田中嘉生・奥田民子・澤田達雄・和田健一・鈴木信康・布川博章・鳥谷さやか
著者のプロフィールや、近況など。
友利香(ともとしかおり)
この夏は、下関市立美術館で開催される「長谷川リン二郎展」でアルバイトをしてます。
(7月1日〜8月15日)関門方面へお越しの際はお立ち寄りくださいね。
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