topreviews[大庭実華展「−積 ・ 流W−」/福岡]
大庭実華展「−積 ・ 流W−」

《−積・流ー》大庭実華 10p×10pに切断した新聞紙を約600s使用。 作品幅2.3〜3.5m・長さ約10m

「日々と悠久」
一対のかたち
TEXT 友利香


《−積・流ー》


壁にはマレーシア、シンガポール、韓国、中国、米国、インドの新聞で作られた作品を展示。
画像ではわかりにくいが、紙の素材(質・厚み・重さ)やインク、印刷状態によって色が異なっている。
新聞紙の厚みは約0.1mmと言われるが、重ねた時に立ち上がる質感が、その国の歴史・情勢などの臭いを嗅ぎ取らせる。

ギャラリーの大理石の壁を背景に、うねる流れが出現している。
垂直方向へと伸びる部分は、木であり、山であり、天であり、水平部分は波、流れ、海…といった自然を表現した作品であることは明らかである。天から与えられた自然の摂理と秩序のダイナミックな風景だ。
しかし素材は新聞紙。この素材が外観に複雑な意味を持たせることになる。

表面は一見、大理石のような質感で新聞紙とは思えない。その石の質感が、さらりとした水の感触を呼び寄せ心地よく感じる。しかし、紙をパラパラとめくるとその情感も一転。新聞記事の断片が目に飛び込み、人間社会のベタつきが現れる。地面で生きる人間はなんと生臭いことか。
作家は「時間と情報の積み重ね」「時間と情報の流れ」をコンセプトに制作したと言うがそれだけに止まっていない。
私たちの日々の万象を束ね、悠久なる風景(さらに拡大した枠での万象)に見立てたことは、大きな歴史空間を目の辺りにさせると同時に、人間が自然に頼り、守られ、生きている存在であり、人間も生態系の一部であることを認識させる。

大庭実華は70年代後半から80年代前半、旧福岡県庁舎の保存再生運動に参加し、1992年の第1回福岡市リサイクルアート展で「エコロジー賽は投げられたーリサイコロ」というタイトルの作品を出品した。90年代、福岡市中心街で開催された「ミュージアムシティ天神」(※)でめて現代美術に触れ、「自分の表現ができるのではないか」と思い、制作活動を始めたと言う。
大庭自身についても、ひとつの体験で起きた感情が波紋となり波となり、大きくうねりながら進んできたのだ。
こうして見ると、この作品は人の感情の起伏であり、人生にも見えてくる。
もちろん、この大庭の言葉の中からも、福岡のアートシーンや世の中の流れも読み取れ、自然界であれ人間社会であれ、どんな人、どんな事象、この世の全てに平等にまとわり付き、それらが絡み合い、混じりながら進んでいく「時間」の流れに気付くことができる。

大庭は、時間を消極的な「うつろい」として捉えていない。人間社会という動脈流が 「どんな速さで、どういう形で、どこに流れて行くのか」と、日々考えることの重要性、積極性を私たちに求めていた。

※「ミュージアムシティ天神」:1990年から開始されたプロジェクト。福岡の街をミュージアムに見立てて、現代美術の作品を市内中心街に展示したもので、「美術館を飛び出した現代美術が、街の中でどう機能するのか」ということをコンセプトとし、当時全国から注目された。


大庭実華展「−積 ・ 流W−」
2010年4月27日(火)〜5月9日(日)

ギャラリーおいし(福岡市)
 
著者のプロフィールや、近況など。

友利香(ともとしかおり)

愛猫がもうすぐ3歳になります。
my猫ちゃん、可愛い過ぎる〜♪





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