おいてゆくもの
TEXT 藤田千彩
今年に入って、東京のアートシーンをさわがせたニュースがあった。
オーナーの死、そしてそのオーナーがひとりで仕切っていたギャラリーが閉鎖した、というニュースだった。
私はとっさに外苑前のトキ・アートスペースのオーナー、トキさんのことを思い出し、心配になり、足を運んだ。
押し付けがましいが、トキさんにも「オーナーひとりでやっているギャラリーへの不安」を感じたのだ。
スペースの扉を開けると、鉄でできた立体作品が「おいて」あった。
いつも笑顔のトキさんに今日も会えて、私はほっとする。
そしてトキさんが「若い子の展示もやらないとね」と言ったとき、この立体作品が若者がつくったものだと気がついた。
トキさんのスペースは、若手作家のステップとしても知られているし、
作品を見ても、決して老齢の彫刻家がつくったものではないのは分かるのだけれど。
無名の若手を丁寧に紹介する元気なトキさんのセレクション、とはいえ、にょきっとした立体物が置かれた状況は、いったいなんなんだ?!
“老い”ていくオーナーと、“置い”てある立体物。
おいおい、それはだじゃれじゃないか。
さて、床置きされた立体作品は、ダイコンとカブだった。
ちぢれた葉まで細かくつくられている。
ただ姿を似せたモノではなく、立ち上がるそのダイコンたちに、作家の意志をも汲み取ることができる。
しかし、なぜ、ダイコンなのか。
「作家はダイコンに追いかけられる夢を見るんですって」とトキさんは微笑む。
夢や自分の内面を表現するあたり、まだまだ若造だな、と私は感じた。
しかしチャーミングさもあり、ダイコンというモチーフもあり、細い根ですくっと立ち上がった姿もあり、なかなか憎めない。
このダイコンたちは、これからどこへ行くのだろう。
トキ・アートスペースの今後も想いながら、ダイコンの行方も気になっている。
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