topreviews[木村充伯展「ジャンプする男」/愛知]
木村充伯展「ジャンプする男」
《ジャンプする男》パネル・ティッシュ・油絵具 2009年

想像力を刺激する未完成であるかのような作風
TEXT 田中由紀子 PHOTO タンルイ


《ひもに顔》ひもに油絵具 2009年

 無垢のクスノキを粗く彫った木彫や、油絵具を固めてハチの巣やポップコーン、人の頭部などを成形したシリーズ〈油絵具彫刻〉で知られる木村充伯。本展でもそれらを見ることはできたが、彼が4年前から制作している〈ディメンショナル・プリント(不定形版画)〉が今回の主役だ。
タイトルを聞いて「版画?」と意外に思われるかもしれないが、これはパネルや壁に油絵具で描かれたドローイングを、絵具が乾かないうちに無造作に丸めたティッシュペーパーでぬぐい取ったもの。たしかに、イメージが紙に写し取られている点では、版画と言えなくもない。失敗した絵をたまたま拭き取ったことがこのシリーズのきっかけとなったが、意図的に制作するようになった今でも、偶然性に左右される部分が少なくない点におもしろさを感じているという。
 この〈ディメンショナル・プリント〉は〈油絵具彫刻〉とはまったく異なる系統のように見えるが、2つがネガとポジの関係にあることは明らかだ。なぜなら、平面を描くべき画材でわざわざ立体をつくる〈油絵具彫刻〉と、ドローイングをティッシュペーパーに転写して三次元化させる〈ディメンショナル・プリント〉は、見た目は前者が立体、後者は平面でありながら、どちらも平面と立体、二次元と三次元という概念をやすやすと飛び越えてしまうからだ。
 とはいうものの、筆者が木村の作品に惹かれるのは、こうした少々ロジカルともいえる点からではない。〈ディメンショナル・プリント〉は途中で描くのをやめてしまったかのようでもある。私たちは描かれた最終的なイメージ、またこれから描かれるであろうイメージを、パネルや壁とティッシュペーパーの双方の絵具の痕跡から想像するしかない。また木彫のイヌやネコの多くは、頭部のみで体は彫り出されておらず、のみ跡が粗いまま残され、彩色も丁寧には施されていない。それらの点から、イヌやネコが首だけ出して、幹から体が彫り出されるのを待っているようにも見える。一見、完成しきっていないかのような作風こそ、見る側が自由に想像し、自身の内面に作品を完成させる余地を残している点で最大の魅力だと思われるのだ。


《枝に顔》樟に彩色 2010年

《枝に顔11》樟に彩色 2010年

展示風景
 
《手》油絵具 2010年

木村充伯展「ジャンプする男」
2010年2月16日〜4月10日

gallery+cafe See Saw(名古屋市瑞穂区)
 
著者のプロフィールや、近況など。

田中由紀子(たなかゆきこ)

美術批評/ライター
http://artholicfreepaper.blogspot.com/




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