topreviews[引込線−所沢ビエンナーレ他/東京他]
引込線−所沢ビエンナーレ他

冨井大裕に見る
展示場所のありかた2009

TEXT 藤田千彩


「『作品の形式』が変わってきたのと同じように、『展示の形式』も変化してきています」
(美術手帖2010年1月号P195中原佑介氏のコメントより)

美術史はつくっていくものであったとしても、変動の記録だと思う。
何の変動か、という「何」部分には、複数の言葉があてはまるだろう。
私は今回冨井大裕(以下、冨井)を主題に、特に場所の問題について考察してみたい。

1.●●ビエンナーレという場について

ここ10年、加速度を増すように増えている展覧会が「ビエンナーレ」「トリエンナーレ」と名がつく形式といえよう。
美術館やギャラリーという、美術専門のハコから脱し、数年ごとに行われるイベントみたいな展覧会だ。


《ball pipe ball》2009 硬式野球ボール、足場用パイプ、足場用クラン 114×700×700・*第1回所沢ビエンナーレ美術展「引込線」の展示 撮影:山本糾

冨井が展示していたのは「引込線−所沢ビエンナーレ」という展覧会だった。
昨年、プレという形ではじまった所沢ビエンナーレは、西武鉄道の旧車両工場という場所で開かれている。
越後妻有トリエンナーレもそうだが、●●ビエンナーレのような展示では、
雰囲気や目に入る周囲のものすべて、作品がどう見えて、どう映えるか、という点が重要である。
冨井が見せたのは、ボールと工事用パイプを組み合わせたインスタレーション作品。
トタン、荷物用パレット、鉄骨の梁、と工場の雰囲気を雑然と残したこの場所に、とてもそぐう作品だった。
こうした場で気づくのは、絵画がとても印象に残らない、ということ。
絵画至上主義で突っ走ってきたアートマーケットとは、相反する動きである。
それはつまり、売れる=絵画作品、売れない=●●ビエンナーレの作品、と言い切ってもいいのかもしれない。
所沢ビエンナーレでの冨井の作品について、「面白い」「場に合っていた」という評価をよく耳にした。
しかし「これは売れる」「欲しい」という意見は、聞こえなかった。
美術の評価軸は、美術“品”の評価軸とは異なることを、●●ビエンナーレでの出品作で知ることができる、といえよう。

2.ギャラリーという場について

ギャラリーαmでの展示「変成態 Vol.2揺れ動く物性」については、PEELER2009年7月号に書いたので参照いただきたい。


《roll》(27paper foldings)#3 2009 折り紙、ホッチキス 21×43×27.5・ 撮影:柳場大

 
Art Center On going「かみのしごと」展示風景(撮影:柳場大)
4月のArt Center On going「かみのしごと」は、ふせんなど紙をつかった小さい作品が並んだ。
ふせん、小さい、といっても、紙の端と端をつなげて盛り上げられた立体作品は、なにかの骨組のようにも見えた。
丁寧にも、壁にはそれぞれの作品について、つくりかたが説明されていた。


11月にswitch pointで行われた「冨井大裕 新作展」では、冨井は中くらいの小品をいくつも出していた。
中くらい??そう、冨井に限らず、最近幾人かの作家は、これまで彼らがつくってきた小品に比べて、作品の大きさをこころもち大きくしてきている。


福永テキストの立体の画像(撮影:柳場大)

 
switch pointでの配布資料(上:福永信のテキスト、下:冨井による指示書)
そのせいでギャラリースペースは、観客と作品でぎゅうぎゅうに見えた。
冨井の新作は、よりコンセプチュアルになっていた。
つなげられた折り紙は、順番どおりに、といったように。
コンセプチュアルというのは、理由を分かりやすく説明するための手段、だと思う。
その説明は直線的(理解しやすいもの)であればあるほど、コンセプチュアル度が高いんだと思う。
会場で配布された小説家の福永信のテキストが書かれた紙にさえ、裏に指示書がプリントされていた。
この紙を折ったり留めると冨井作品になりますよ、あなたも冨井作品をどうぞ、と言わんばかりに。
作家の制作姿勢を公開することは、アンチ隠蔽な社会とマッチしているようだ。
腐ってるのか、混ぜ物が入ってるのか、よく分からない秘蔵のタレに魅力を感じないように、世の中は明確さを求めているから。
とはいえ、たやすくアーティストの制作スタンスを見せびらかしていいのか、私は疑問を感じてしまう。

 
奥村雄樹との二人展「Inside Outline」チラシ
3.実験的なスペースについて

冨井は自身のスペース「KABEGIWA」で、目黒区美術館学芸員の石崎尚を企画者として迎え、奥村雄樹との二人展「Inside Outline」を7月に開いた。
武蔵野美術大学の一室に過ぎない小さなスペースで見せた展覧会は「身体」がテーマという。
そうだっけ?
作品の印象の薄さはαmでも感じたことだったので、再び触れることはしない。
とはいえ、ビニールテープで人体っぽくつくられた像、たしかに輪郭=outlineではあるが、壮大なテーマと軽薄な作品のギャップに、私は戸惑った。
どちらかというとプライベート的な、実験的なことができるスペースでの、見せる“甘え”を感じたのだ。
逆に言えば、作品を見せることに緊張を持たせないこともアリなんだ、と気づかされる場でもあった。

4.新しい展示場所へのトライ

9月19日、たった一日だけのグループ展が開かれた。
 
《joint(ball)》2005 ストロー 60×60×57・
*オープンハウス("DRS" 設計:田中裕之建築設計事務所)の展示 撮影:末永史尚
場所は「設計監理 田中裕之建築設計事務所」、世田谷にあるマンションの一室は、個人宅のような場所だった。
アートマーケットが広まるなかで、ポスターやカレンダーのような平面作品だけでなく、あらゆるジャンルの美術作品は個人の家に所有されるようになった。
この展覧会で見せる作品は、この建築事務所が所有するのか、単なる見せるだけだったのか、知る由も無いが、こういうふうに作品を置くと素敵です、アートがあるってすばらしい、という提案に感じた。
究極的な高橋コレクション(あるいは「ネオテニー・ジャパン」展)はさておき、個人レベルでのアートコレクターは増えたと思う、一時的であったにせよ。
あと2、3年はアートファンがファンとして居残るだろうから、こうしたお宅訪問的な展覧会も増えてほしいものだ。
あるいは「KOMAZAWA MUSEUM × ART」展に見られる、アートが建築に近寄っているようなイベントのように、モデルハウスやオープンハウスでアート作品を置くことも、もっと増えていいだろう。

5.美術館について

 
カスヤの森美術館「アテンプト2」展DM
8月、富井はカスヤの森美術館の「アテンプト2」というグループショウに出品した。
スーパーボールとステンレス板を重ねた作品、色鉛筆とアクリル板を重ねた作品、というこれまでのワークスが並んでいた。
壁に貼られた久家靖秀の写真から分かるように、このメンバーはtime&styleという家具屋での展示したことがあるつながり(たぶん。企画者の
長谷川繁がtime&styleでアートを扱っているためと思われる)。
美術館で改めて彼らの見るのと、家具屋で見るのとでは、見る意識が違ってくるはず。
まず、美術館には余計なもの(家具屋なら家具など)がない。そして、美術館には敷居のような、緊張感がある。
この2つをさっぴいたとしても、美術館という場所で冨井作品を見る意味を改めて考えてしまう。
つまりそれは、もはや展示場所は美術館に限らないからだ。
というか、美術館は何を見せる場なのであろう、と思わせるからだ。
私個人の話になるが、「ぴあ」という雑誌に大きく関係した2009年だったため、美術館との仕事も多かったが、
「バラの花、恐竜、宝石、ジュエリー、なんでも見せますね。」(上掲「美術手帖」2010年1月号P196の中原佑介氏コメントより)。
まさにこのとおりで、私が知っている(あるいは追っている)美術は、もはや美術館では見ることができない、らしい。
特に20世紀以前の、決まった価値のものにだけ焦点を当てるなら、美術館での美術作品はいつまでたってもクラシック音楽を聴いているようなものになってしまう。
カスヤの森美術館は私立の美術館なので、クラシック音楽というよりは民俗音楽を聴いているような、
(いい意味での)偏りがあるため、現代美術を見せてくれる。
しかし現代における美術の見せ方、見せる場、の多様化によって、作家も観客も何を美術に期待しているのだろうか。
今年の冨井の活動を振り返ることで、改めて美術のありかたをも考えさせられるのではないだろうか。

引込線−所沢ビエンナーレ
2009年8月28日〜9月23日
西武鉄道旧所沢車両工場(埼玉県所沢市)
変成態 Vol.2揺れ動く物性
2009年6月13日〜7月18日
ギャラリーαm(東京都千代田区)
冨井大裕 新作展
2009年11月19日〜29日
switch point(東京都国分寺市)
一日限りの展示
2009年9月19日
設計監理 田中裕之建築設計事務所(東京都世田谷区)
かみのしごと
2009年4月29日〜5月17日
Art Center On going(東京都武蔵野市)
アテンプト2
2009年8月1日〜10月4日
カスヤの森美術館(神奈川県横須賀市)
 
著者のプロフィールや、近況など。

藤田千彩(ふじたちさい)

1974年岡山県生まれ、東京都在住、
アート+文章書き。
「ぴあ」アート臨任デスクも終わりました。ふぅ。
オシゴトください。→chisaichan@hotmail.com




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