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アートイン木町プロジェクト「つなぐ」’09『山口盆地午前5時』

夜明けから日の出へ
TEXT 友利香

NPO法人山口現代芸術研究所(YICA(イッカ))の活動歴は長く、1995年活動開始以来、ダン・グレアムら大家をはじめ国内外のアーティストをレジデンスで招いたり、パトリック・ゲディス(1854-1932)※に関する研究や人材交流を行なう「エジンバラ−山口」などを実施している。2007年からは、『アートイン木町プロジェクト「つなぐ」』という展覧会を開催。その3回目になる今年は「山口盆地午前5時/Yamaguchi Valley Section 5am」と題し、中央部に流れる椹野川(ふしのがわ)流域という観点から山口盆地を捉えてみるという試みをした。
20人以上の作家が参加し、作品は明治維新の名残を残す菜香亭(さいこうてい)とレジデンス施設として活用されている木町ハウスで展示された。


《それぞれの庭(Detective Garden)》狩野哲郎


■木町ハウス

《それぞれの庭(Detective Garden)》狩野哲郎
 
狩野哲郎
ゲスト・アーティストの狩野は、築100年以上経つ日本家屋の和室で、奇妙な光景を見せてくれた。
植物とチャボと人間が一緒に暮らしているのだから。
狩野の作品は、2007年「広島・旧中工場アートプロジェクト」 で見たことがあり、それは破れた麻袋からこぼれ出した種子から、発芽 する草の作品だった。
今回会場となった和室にも種子から発芽した草、お供え物の果物、鏡餅などが置いてあり、狩野の作品らしい雰囲気はあるが、それらを突付いて壊していくチャボが登場している。
狩野は、鏡でチャボの縄張り意識を駆り立ててみたり、床の間に鳥避けの道具をぶら下げたり、ホースで草の領域をホースで囲ったりなど、様々な“チョッカイ”を試みている。
この部屋は人間にとっては住まい、鳥にとっては遊ぶ庭、草にとっては生育の場。
いずれにとっても快適で満足した環境ではない。そこで暮らすものたちの、けな気さをしばらく見守る。
価値観の違うものが一緒に暮らすという、家庭でも職場でも人間社会のどこにでもある光景に見えてくる。
そんな私たちを結ぶのは、愛なのだ。 ■菜香亭会場


《川の息遣い(F-River)》小畑徹


《川の息遣い(F-River)》小畑徹
「つなぐ」「山口盆地午前五時」「バレーセレクション」という3つの要素を備える「椹野川」。その源流あたりから下流域までの水面を撮影。川の汚れは流域の人の営みに繋がる。そして階段を使った展示は、1階と2階の会場をうまく繋げてくれている。
《Rice Drawing/三羽の白い鳩と一羽の茶色い鳩》 中野良寿

中野良寿は、この夏襲った山口・防府市地域の水害被害に遭い、その経験からドローイングに関する2種類の作品を出品している。


《Rice Drawing/三羽の白い鳩と一羽の茶色い鳩》中野良寿

 
《Rice Drawing/三羽の白い鳩と一羽の茶色い鳩》中野良寿

《Roots drawing (山口盆地午前5時)#2》中野良寿
中野は山口市を縦断して流れる椹野川から水を汲んできた。ポリタンクは断水時彼が実際に使用したものと同形である。ポリタンクの上に透明フィルムに印刷した山口市の地図を置き、その上に三つの白米と一つの籾殻のついた米をサイコロを振るようにして振りまく。籾殻のついた米をカーソールのように考えて、この米がある場所を地図上で特定する。後日、実際の場所へ行って撮影した写真を展示している。
同様にして鑑賞者もゲームを楽しみ、後日特定した場所に行き写メールを作者のHPに送るとそれが作品の 一部に加えられる。(作者はこの作業全体をドローイングと考えている。)

《Roots drawing (山口盆地午前5時)#2》

庭園の見える2階のベランダに「この場所から見える庭を描いてください」とある。
紙を押さえている木の根の先には芯が埋め込んであり、これを使って描く。
この無造作に置かれた1本の木の根は歴史ある庭との呼応し、ここが山口盆地の中心だと言っているかのように存在感がある。この根は実際に水害で流出されたもの。
絵を描きそれを展示する行為は、庭と屋内、お客と庭、お客と展覧会を繋げてくれる。
さらにお客が前の人が描いた絵を手に取り、自分も描き残すことは、次々に訪れる者同士をも繋げていく。


左)《夢の塔計画》原井輝明 右奥)《晴耕雨読》 范叔如


見落としてしまうほどの狭い、隠し部屋のような和室。
左)《夢の塔計画》原井輝明
ダンボール紙を積み重ねた夢の塔。聖書に記されている伝説のバベルの塔が思い浮かぶが、夢の塔とは何だろう。
原井は、今夏、世界一美しいと言われる「チェレンコフの光」というタイトルの作品を発表している。
チェレンコフの光とは何だろう?その光の妖しさを描いた平面作品だったが、ここに夢の塔を解読する手がかりがあるかもしれない。

右奥)《晴耕雨読》 范叔如(ハンシュクジョ)
和室の床の間にあわせてキャンバスを掛け軸の形体にし、白地に白の油絵具を使って山水画を描いている。
キャンバスと掛け軸、油絵具と山水の絵柄との関係は、対立か、均衡か、融合なのか。范は中国出身、広島在住。彼は作品に自己のアイデンティティーを封じ込めようとしているようだ。

 
YouTube - People will always need people. /山城大督

《コロコロ》保手濱 拓

《People will always need people. 》山城大督
新山口駅と津和野間を走るSL列車に乗ると、沿線の人たちの多くが列車に向かって笑顔で手を振ったり、鉄道マニアや写真家がカメラを構えている様子が見える。それが次から次へと現れる映像に、なんだかとてもハッピーになる。自分に手を振られたわけではないのに。
 
《コロコロ》保手濱拓
カーペット用のコロコロをコロコロしてみると、
そこには山口県を形どった髪の毛が!
瀬戸内の島々を忠実に表した小さな毛玉付き。




 
《Dream of floating bridge》
ノーヴァヤ・リューストラ(中野良寿+安原雅之)
《Dream of floating bridge》ノーヴァヤ・リューストラ(中野良寿+安原雅之)
 
ノーヴァヤ・リューストラは、アーティストの中野良寿と音楽学者の安原雅之のアートユニット。
この作品では、二人が世界各地を旅した 時に出会った印象深い人々についてのショートストーリー集の中から、スコットランドにまつわる話を聞かせてくれる。
この音声は、今夏の午前五時、山口の自宅のベランダで朗読する中野の声を
国際電話と通じてスコットランド旅行中の安原に届け、現地で録音したもの。
真っ暗な画像だったが夜明け前の気配が漂う時間を届け、
「山口盆地午前五時」としてのイメージを確かなものにしてしてくれた。
 
山口の現代美術が今、朝霧の中から姿・形を現してきた手ごたえを感じさせる展覧会だった。
 
※パトリック・ゲディス(1854-1932):スコットランドのジェネラリスト、視覚的思索者。グリーン・パイオニアとして近年かれの多方面にわたる業績(例えば、「生命」都市計画、風景建築等)が再評価されている。中野の作品《Rice Drawing/三羽の白い鳩と一羽の茶色い鳩》は、ゲディスが提唱したことがらに基づいてイメージし制作されている。

アートイン木町プロジェクト「つなぐ」’09『山口盆地午前5時』
2009年10月8日〜10月12日

山口市菜香亭(山口県山口市)
木町ハウス
(山口県木町)

NPO法人YICA
 
著者のプロフィールや、近況など。

友利香(ともとしかおり)

この冬の目標は、秋吉国際芸術村で隔週くらいで開催されている「文化庁地域文化芸術振興プラン推進事業
<Beyond the World -アートで超える->」にフル参加することです。
展覧会に行くのも体力いりますね。
http://www.aiav.jp/




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