そして最後まで理解できなかったのが井上賢治の作品だ。
展示用壁の裏に並べられた《ラック》、壁に埋め込まれたボルトにクリップが掛けられた《自由に/自由を》といった作品は、近年の立体系作家に多く見られる「日常品」を「単調に置く」という形式のものにすぎない。
ただ、流しにあった黄色いペンキが入ったバケツに、蛇口からかなり細々と水がしたたっている作品《淘汰》は心を打った。
蛇口からの水はもちろんクリアなのだが、薄く黄色く白濁したバケツの水に流れ込み、そのにごった水が流しをつたう。
はかなさ、もったいなさといった心の弱みや、危険なイメージを伴う黄色、ぐさっと心に刺さった気がした。
1点1点を見ていくと、てんてんばらばら。
しかし後で思い出すと、調和はないがまとまりを感じてしまう。
どの作品も神戸アートビレッジセンターの空間をうまくつかっているし、観客の足を止める力を持っている。
コンペティションという競争も悪くない、知らない者同士だからこそ面白いジャムセッションがあるんだな、そう思った展覧会だった。
a)芳木麻里絵『レース#12』 撮影:表恒匡
b)芳木麻里絵『untitled』(部分) 撮影:表恒匡
c)展示風景
d,e)井上賢治『淘汰』 撮影:表恒匡