topreviews[ 小島健司展 『日々記』/神奈川]
小島健司展 『日々記』

 
「空ノ線」 14.0×8.0cm

「散歩道のミモザ」 18.0×18.0cm
素材は全て 「膠・雲肌麻紙・岩絵の具・色鉛筆・ペンキ・ガラス粉」
 
 
   
「クマ笹ノ山ノ上」 14.0×8.0cm

何気ない日常の風景に輝きを与えるものとは

TEXT 安東寛

 「港の見える丘公園」で知られる横浜山手地区のふもと、住宅地の中にあるギャラリー四門にふらりと立ち寄ってみた。
今回行われていたのは、多摩美大卒・小島健司氏の個展「日々記」だ。
夏のような陽気の日だったが、ギャラリー内に展示された、静かで清涼感のある雰囲気を発している絵を眺めていると、一気に涼しさを憶えた。
"雲から雨の降る様子""露のついた蜘蛛の巣""丘の上の鉄塔"など、シンプルな対象物が描かれている。
小島氏によると日々記とは「日々のことをつづるように、ふと出会った気になる風景を描く」という意味だという。
 しかし彼の絵には、それぞれ共通する特異な点がある。
それは雲の輪郭、蜘蛛の巣の糸、鉄塔の骨格や電線などが、赤を基調とした七色に輝く鮮やかな線として描かれていることだ。
まるで電飾が施された蜘蛛の巣や鉄塔といった印象で、これが絵の中の静かな風景に、可愛らしいファンタジックなアクセントをつけている。
この七色を表現するのには、マニキュアの顔料を使っていたり、板ガラスの粉末でキラキラした感じを出していたりと、こだわっているそうだ。
 本来ならば、グレーや半透明といった色に見えるはずのものが、なぜ七色になっているのかが不思議で小島氏に聞いてみたが、「自分でもわからない」との返事。
表現を感覚的行うアーティストにとっては、これは愚問だったのかもしれない。
ただその風景に出会ったときではなく、アトリエで絵を描いているときに、自然と七色に描きたくなるのだという。
多分彼が別れ際にもらした「ファンタジックな色を使いたがるのは自分の4才の娘の影響なのかもしれない」という言葉にその答えが隠されているように思う。
今の彼にとって日々気になるのは自分の娘の存在で、ふと気になった風景の中にも、その子供を光り輝く七色の線として思い描いているのかもしれない。
 そして展覧会後、私は彼から「あの七色は、日々の生活の中で見つけた風景を描き、その中に自分自身(娘の存在も含む)を描いているのだ、ということに気づいた」との返答をもらった。
彼の一連の作品、日々記を観ていて感じてくる、ほのぼの感。
それは、"自分の身近に幸せな家族という輝かしい存在がいることで、自分が出会った普段の何気ない風景も、虹色にきらめく風景に見えてくる"...このことを作家が、素直に表現していることから伝わってくる安心感といえよう。
幼い頃誰もが感じていたであろう、何を見ても絶えず幸福感を感じていて、周りの風景が輝いて見えた、そんなノスタルジックな気持ちにも似たものなのではないだろうか。

小島健司展 『日々記』
2009年5月2日(土)〜5月17日(日)

GALLERY SIMON(神奈川県横浜市)

小島健司
1976年   静岡県三島市生まれ
2000年   多摩美術大学 大学院 日本画 修士課程修了
 
著者のプロフィールや、近況など。

安東寛(あんどうひろし)

1969年 神奈川県生まれ。現在月刊ムーを中心にして執筆活動をする、妖怪と妖精を愛するフリー・ライター。
趣味で色鉛筆画を描いてます。




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