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inside「水面に映る影」/outside「汽水域」


彫刻は舞台を選ぶ ー外と内との相乗効果
TEXT 友利香

市民の憩いの場に、美術の潤いを持ち込む役割を担う野外の作品と、束縛から解き放たれたかのように、伸び伸びしている室内の作品。
6月2日〜6月20日の間、アートコートギャラリーでは、野外と屋内の二本立で彫刻を楽しむことができた。
この辺りは、大川の「汽水域」(※1)であることに因んで、二層構造の展覧会と言うべきだろうか。
各作家はテーマに基づき、表面にこだわった作品を出品している。

■outside「汽水域」
まずは、OAP(OAP=大阪アメニティパーク)彫刻の小径を歩いてみると。。。


《凍雲ー6》星野暁
以前遭った災害で、それまでの現代陶芸の新しい実験やアイデアを捨てるような衝撃を受け、土に対する考え方が変わったと言う。軟らかい土を指で一押ししていくといった原初の行為で螺旋の構造に立ち上げていく。
一見、強く重厚な印象だが、襞のひとつひとつには、産毛を揺らしていくような柔らかい息差しがある。

佐藤氏欠席のため、藤井氏が解説

《中空のレイヤー》佐藤時啓
佐藤は、鉄のパーツひとつひとつを螺旋状に蝋付けしていった。その時の熱で他の部分が伸縮・膨張してゆき、所々形にズレが出てくる。熱のいたずらが功を奏し、鉄の樹木は周囲の樹木との同化を導いている。


《CONTINUITY−C》清水六兵衛
7〜8mmの粘土板を上へ上へと貼り合わせていく。乾燥や焼成で生じる歪みや粘土板の厚み、四角の穴、表面の周囲の色や光を映し込むなどの効果が造形の揺らぎを、より危なっかしく感じさせる。周囲の色を取り込む表面の色が美しい。


《はじめ と おわり の あいだ》杉山吉宏
白い鉄板に展開図を描きそれを抜き立体をつくる、その完成の一歩手前で置いた作品である。
表裏均一な塗装と「一歩手前で」というのがミソで、表裏逆転のトリッキーさと、果たしてこの展開図からこの立体ができるのか?と言った疑問で人を足を止めさせる。


《MOTION&EMOTION2009−ふかふか で ちくちくー》磯部聡
磯部は、身近な物でその街の印象・街との出会いを表現する作家である。「水の都」大阪のイメージがあり、塩化ビニールの水道管を繋いで立ち上げ、彩色したと言う。なるほど。大阪駅に降りた時、人のおしゃべりや色とりどりの看板をつけた建物で、ごちょごちょ・ごにょごにょ賑やかである。ここでは、対岸に見える看板との関係も見逃せない。


《同位体-WAVE-》矢田秀人(画像f)
黒の花崗岩をすり鉢状にくり貫いたようなものと、お椀のような形がある。形の呼応、等高線のような赤い線の呼応、色の呼応、肌ざわりの呼応など種々の要素が呼応し、見えない部分を想像するよう計算されつくされている。


《SEED−雷神》伊藤憲太郎
「大きいものだけが野外彫刻ではない。」という伊藤。しかし、どこかに大きなスケールが潜んでいるはずだ。
見上げると、地から空までの風景が映っているではないか!絶妙な高さだ。
小さな鏡面は、自然や人の営みの大きな世界を映しながら、この場所でひっそりと静かに浮かんでいる。


《光陰虚実》柴田純生
私たちが金魚鉢を覗く時、ガラスや水を見ているだろうか。そうした、見えているにもかかわらず認識していないようなものを、ここでは空洞で表すと同時に、金魚や蓮は人を惑わせるネオンのような妖しい色で彩色している。今見えているものが本当に正しいのかと問うかのように。

撮影:表 恒匡 写真提供:アートコートギャラリー

■inside「水面に映る影」

アートコートギャラリー内での展示は、佐藤時啓の《光ー呼吸 Shirakami1・2・3・4》で始まる。とても贅沢な気分。
佐藤の作品は、樹木と舞う光。立ち木のある風景を、樹木の精気、あるいは地からの精気が潜むただならぬ場へと、光を使ってしつらえている。「大学時代は金属彫刻をしていた佐藤が、物質をだんだん無くしていって、光だけで表現できるものにたどり着いた。(※2)」という説明にうなづける。佐藤の彫刻と写真がどういう関係にあるのか、興味あるところだ。

壁左:磯部聡《MOTION&EMOTION2009-L・1-》壁中央:杉山吉宏《Planet−Suspend》壁右から:清水六兵衛《相対形象ーU》《Reflector−A》《Reflector−B》星野暁《「始まりの形ーラセンと出会って」より 春の雪 09-1、09-2》テーブルの上::伊藤憲太郎 《SEED》2点 床:柴田純生《大鯉》《鯉》
撮影:表 恒匡 写真提供:アートコートギャラリー (*画像はフォトコラージュしたものです)

佐藤の壁を通り抜けると、おお!なんてここは自由なんだ!
作品一つ一つの個性が他を邪魔をすることなく、羽を伸ばしている。

室内:矢田秀人(左から)《The entrance》《Clip of the pink nebula》《ガス星雲より》(2点共)
屋外:星野暁《「始まりの形ーラセンと出会って」より 秋の夕暮れ 08-2》
撮影:表 恒匡 写真提供:アートコートギャラリー

壁は、おしゃべりな白と黒の作品で賑やか!
まず、白いドットのある平面(立体?)は磯部の作品。 点字のようだが、点字の読めない私は不自由さを味わう。おしゃべりを蝋で封じ込めたようなドットのひとつひとつの表面が、ますますコミュニケーションへの欲求を募らせる。
杉山の作品は、表面の黒い羽のようなものが、パタパタ・カシャカシャ音を立てて騒いでいる。これは周期的に電磁石で動いているそうだ。

作品に手の跡を一切残さない清水と、土を立ち上げていく作家の“手”“指”をも見せてくれる星野の陶対決?も、見応えがある。
清水の陶板は光の気品を放射しているし、星野の土には自然の中から命が育つ兆しが漂っている。

また、鉄、ポリエステル樹脂、大理石といったおなじみの素材の作品が置かれている。
伊藤が今回出品したのは鉄の種子。風雨で鉄の殻が朽ち、雨水が染み込み発芽する。
朽ちるまでの時間と発芽までの時間、そして、発芽後始まる新しい時間。気が遠くなるような時間が置かれている。
柴田のポリエステル樹脂でできた大鯉と鯉。富や権力を必死で手に入れてみたところ、幻影だったということか。

イタリア仕込みの矢田が作り出す大理石は、形も肌もエレガント。石は粉砕や研磨で内部が外の表面になっていく。この作品表面の模様は、まだ大きな岩だった頃からどうつながってきて、さらに内部にどうつながっているのか辿りたくなる。

さらに展覧会は、単に作品鑑賞だけでは終わっていない。
本展キュレーター・藤井匡は「“汽水域”をモデルに彫刻表面を考えることは、美術の形式的な考察だけを目的としていない。野外彫刻を社会史が反映する場として読解するためであり、そこから可能性を引き出すためである。」と言う。
どういうことなのか?
野外で行われたアーティスト・トークでは、
「この立派な台座に負けないような作品を持って来ようと思った。」(星野)
「台座に作品を置くのは初めて。」(磯部)
「ここの台座を見た時、(自分は)普段、地表に平な作品を作っているから、困った。」(杉山)
「この立派な台座の上に繊細なものを作りたいと思った。」(伊藤)など、終始、台座のことが話題になった。
現代彫刻には台座がないはず?
おそらくここの台座は、十数年前、都市設計プランで設置されたものである。
しかし作品の傾向も、背景となる都市景観や公園風景も時代と共に変わっていってしまう。
現在、多くの街で彫刻が設置されているが、両者がうまく噛み合いながら成長していって欲しい。
日常に置かれ、風景を作品化する役割を果たす彫刻のためにも。
その場を享受する住民のためにも。


※1:OAP彫刻の小径は大阪市・大川の河口付近の海水と淡水とで形成される汽水域に所在する。
水質は、それぞれの密度の違いから、海水と淡水の層をなす。
※2:藤井氏の解説から。

inside「水面に映る影」
2009年6月2日ー6月20日

outside「汽水域」OAP彫刻の小径
2009年3月23日ー2010年春

◆出展作家
磯部 聡/伊藤憲太郎/清水六兵衛/佐藤時啓/柴田純生/杉山吉宏/星野 暁/矢田秀人

◆ゲストキュレーター
藤井匡 


OAP彫刻の小径&ARTCOURT Gallery(大阪府大阪市)
 
著者のプロフィールや、近況など。

友利香(友利香)

OAP彫刻の小径を通るたびに 「ああ・・・せっかくの良い作品が台無し!」と思っていましたが、 今回問題提起され、ちょっとスッキリしました。
ここには川があって、船が走っていて、美味しいパン屋さんがあって、人なつっこい野良猫がいて、犬が散歩していて。
私のお気に入りの場所です。




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