topreviews[混浴温泉世界 別府現代美術フェスティバル2009 /大分]
混浴温泉世界 別府現代美術フェスティバル2009

のぼせます 源泉かけ流し 濃ゆいアート湯
TEXT 友利香

今話題の「混浴温泉世界」。
オープニング早々、別府へ行く。
残念ながら時間がなく、アートクルーズが展開されている3地域のうち、鉄輪(かんなわ)地区と中心市街地しか回れなかったが、様子を少し紹介したい。

中心市街地

 
 

ラニ・マエストロ《Higugma(Breath.息)(場所:築100年の民家)
蝋燭の炎から立ち上がる煤(スス)によって和紙に描かれた抽象画のインスタレーション。
その中に鉛筆で書かれている単語は、フィリピン語。
何と書かれているのかわからないが、煤は熱と光の化身。
かつてこの場所に住んでいた人たちの営みを蝋燭の炎とするなら、
この墨色はその名残と言うのだろうか。
そうは思えない。この家全体を流れる風に、この墨色の炎は立ち上がり、たなびき、揺らいでいるのだから。
むしろ今感じる気の流れは、この作品が起こしているのだ。


マイケル・リン (場所:築100年の民家)
襖に描かれたハイビスカスのような絵。
窓が開放されていて、海の風を感じる。
ハイビスカスは、ダイナミックなドラマを感じさせる花だ。
私は見ることができなかったのだが、会場マップによるとマイケル・リンは、別府国際観光港にも壁画を描いているそうだ。
となると、この家の襖の作品は、その壁画と日本人移民の以前の住居と海の向こうの入植先が呼応しているのだ。
ハイビスカスのような絵はこれらをつなぐ切なさの花…いや、希望の花だと受け取りたい。


サルキス《水の中の色彩》(場所:波止場神社)
歓楽街の端、海のそばにある波止場神社本殿の床に並べられた白い器。
供物を入れた祭器だろうか。
グラデーションが美しい黄色い液は、温泉の水に溶かした絵の具。「光」、「昼」、「蜜」を表す黄色の水彩絵の具を垂らして描いた絵画だと聞いた。


インリン・オブ・ジョイトイ《エンゼル》(中心市街地の空き家)
どこの町にでもあるような歓楽街の裏道にあるスナック「エンゼル」。
カウンターの向こうの棚は整理整頓されていて、小奇麗な店。
3坪くらいだろうか。階段がある。足がすくむほどの恐怖を与える「ハーハー」という息づかいの声がする。
細く急な階段を上りきった時、目に飛び込む光景は、牢屋・脂汗でベトベトになった鉄格子・壁には殴り書の血の色・「造反有理」「逃亡」「日本鬼子」・・・などの言葉。
隣室は、白い壁紙・ふかふかのカーペット・ベビーベッド・オルゴールメリー。
ベットのそばには、かっぽう着の女性が何者かに追われて逃げるシーンの映像。
ここには社会の裏のねっとりとした空気が溜まっていた。


チャン・ヨンヘ重工業《別府でハネムーン》(場所:商店街の空店舗)
(「彼のハネムーン」「彼女のハネムーン」男女二人の物語)
彼と彼女は、夫婦でも恋人でもなさそうだ。
そういった二人がフェリーで別府に行き、ハネムーン気分を楽しんだ時の自分の気持ちを回想する。
「彼のハネムーン」の画面は血の池地獄のような色、彼女のは色褪せている。
男は自身の腹の中を探るような語り口、女は心の奥にしまい込んだ思い出を無邪気に話す。
男女の対比が面白く、何度も見てしまう作品だ。

  ここはトイレですよね。人形の胸は鏡になっていて、覗いた人の顔が映ります。    

「わくわく混浴アパートメント」(場所:別府市街地の清島アパート)
フラフラと歩いていると、しゃぼん玉が飛んできました。
あ、ありました!淀川テクニックの花輪が見えます!
この花輪を見ると、いつも急に元気になるのですよね。
訪問時、ここの住人さんたちはラップを歌いながら、楽しくお料理をされていました。

鉄輪(かんなわ)地区

 
この作品は、中心市街地の商店街の店先にも流れている。

ジンミ・ユーン 《The dreaming collective knows no history (Takegawara Onsen to Chuo Public Hall, Beppu, Japan)》
制作年:2008, 44分47秒
別府の町を腹でスケボーに乗り這っている姿の映像作品。
人々が行き交う地面の勾配、硬度、這いつくばった地点から見える風景、人々の暮らし、この地の全てを直接五臓六腑で受け取るのだ。
体力の限界まで。


ホセイン・ゴルバは、旧冨士屋旅館1Fと2Fの和室に展示。
タイトルの《Roshandel》、心の光 とは、ペルシャ語で心の光を意味すると同時に、目の見えないことも意味する。
明治建築の名残を湛える室内に宇宙を持ち込んでいる。

ホセイン・ゴルバ《Roshandel》、心の光 伊藤和也さんとペシャワール会へのオマージュ
冨士屋Gallery一也百(はなやもも)
1F和室
8畳ほどの畳の上に、白・紫・赤・黄・緑の五色の布が敷かれている。
これは神社やお寺にある布のようだ。
自然界の五元素(風・火・地・水・空)に見立てられた布に太陽は刻々と光を浴びせていく。繰る日も繰る日も。


《Roshandel》、心の光
2F8畳間
太陽が、点字で打たれた般若心経の上を通る。
点字は和紙に5mmの高さで立ち上がり、光の強さ、方角で刻々を影を変える。

万人に平等に与えられている光。
光を心で見る。自然を心で見るのだ。


ホセイン・ゴルバ《接木》
春夏秋冬を裸で受け、人々にそれを知らせる樹木。
ゴルバは、お寺の木に俳人・加舎白雄の本を縛りつけた。
この本の中には、日本の春夏秋冬の情感が詰っているはずだ。


  駅前通りのインフォメーションセンターは、チャン・ヨンヘ重工業の作品が目印です
私は慌しく歩いたので、作品をたくさん見落としてしまいました。
時間はたっぷりとって行かれてください。ご参考まで。

混浴温泉世界
別府現代美術フェスティバル2009

2009年4月11日〜6月14日

大分県別府市各所
 
著者のプロフィールや、近況など。

友利香(ともとしかおり)

寂しがり屋の猫と暮らしているため、最近お泊りができません。
別府には1泊すればよかったなー。もっと見たかったなー。
くやしいなー。




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