topreviews[小泉伸司−アナモルフ/空蝉/バロック−/東京]
小泉伸司−アナモルフ/空蝉/バロック−
作品と「向き合う」ことの愉しみ
TEXT 藤田千彩

小泉伸司の作品が展示されているスペースは、お寺の一部だった。
お茶室のにじりぐちのような、くぐって足を踏み込む入口。
そこから5mほど進むと、お賽銭箱があり、靴を脱ぐ場になっている。
どしゃぶりの中、歩いてきた私はおそるおそる靴を脱ぎ、ぺたっと床に座り込む。
さっきまで話していたオーナー、つまりお坊さんとの声も、外で車が走ったりする音も、すべて遮断されている。
えっと、えっと。
さっきまでの明るかった「現実」から、暗闇の中でゆらゆら揺れる「映像」に身も心も入り込むまで、しばらく時間が掛かる。



入ってすぐある作品は《オーバル:アナモルフ》、楕円形の映写用レンズ「アナモフィックレンズ」で映し出された映像を撮影したという。
小泉は映写技師でもあるため、このような専門的な機材もつかうのだろう。
赤、青、黄、つまり光の三原色だったり、影だったり、そういったおぼろげにうつる像がゆらゆら揺れている。
ずっと眺めていても、その楕円の映像は見飽きることがない。
カラーの色、それは像というはっきりした形でとらえることができるとは言いがたく、黒い影、これも人やカーテンの布のような像に見えたりするが、あいまいだ。
目が慣れるまで、心が落ち着くまで、あいまいに見える色や形がやさしく見える。



しばらくして、何か音がする、と思った。
奥にも部屋があったのだ。
しかも《溺れる》、《ピエール》という2つも作品があった。

《溺れる》は5.5インチの小さなモニターに、にじんだように青い人影が映る。
よく見ると、モニター画面は、黒く塗られてスクラッチされている。
人影だったのか?それともスクラッチされた画面から光がもれているのか?
星雲のような、小さな星の散らばりのような。


《ピエール》はまさにオーロラだった。
銀河系のような青、オレンジ、白、赤、黄色といった星のまたたき、空の光に感じる。
ときどき「ゴーーーォッ」という音も、何か不思議な、しかし記憶のどこかをくすぐるような、そんな気がする。



帰ろうと思ったとき、《オーバル:アナモルフ》に向きあって《ホラー》という平面絵画のような、静止画作品があった。
暗闇で光る星は静かにとどまっている、見えるか見えないか微妙なまばゆきで。

星が生まれて、光り、やがてクズとなっていく。
どの作品もそういう星の人生、流れを見ているようだった。
私たちは生き急いでいるけれど、星のようにゆっくり長く生きるべきなのではないか。
光っていることだけが「いい」とか「すばらしい」のでもなく、影でも薄い光でも「きれい」と思える瞬間がある。
暗闇で足もとを見失いそうな私に、そんなことをそっと気づかせてくれた。

小泉伸司−アナモルフ/空蝉/バロック−
2009年1月14日(水)〜3月27日(金)

空蓮房(東京都台東区) 
 
著者のプロフィールや、近況など。

藤田千彩(ふじたちさい)

1974年岡山県生まれ。今月は完全冬眠中。

お仕事の依頼 → chisaichan@hotmail.com




topnewsreviewscolumnspeoplespecialarchivewhat's PEELERwritersnewslettermail

Copyright (C) PEELER. All Rights Reserved.