学問領域という壁を超えて
TEXT 藤田千彩
「美術のライター」という仕事をしていると、作品を見るだけではなく、アトリエにおじゃますることもある。
現代美術、つまり、作家が生きている美術とはいえ、作家と会うこと、作品をつくる現場を知ることは少ない。
アート業界以外の人からすれば、「え?美術家なんているの?」とか言われかねないくらいだし。
そんな稀有な状況に、これまた不思議な視点が投げ掛けられた。
認知心理学、というジャンルからである。
ケース・スタディ(これも心理学用語であろう)に選ばれたのは、篠原猛史(1951年生まれ)と小川信治(1959年生まれ)。
会場に入ると、運命の分かれ道のように、展示会場は左右に分かれている。
既に心理テストを受けているような気持ちになり、私は「右」を選んだ。
この展示に来ている人たち(たまたま行った日が駒場祭だったので多くいたのかもしれない)が、興味津々に、足の速度がゆっくりに、熱心に見入っていたことが気になった。
ものの見方はいくつもあるのは分かっている。
しかし美術の人たちは「アートとはこういうものだ」という偏見を与えがちだし、心理学として「こういう結論に至る」という押し付けをしてしまいがちだ。
この展示はけっして難しいものではなく、私の知らない「認知心理学」というジャンルが「どういったものなのか」と気にさせてくれるようなものだった。
制作というプロセスを「解体」あるいは「分析」することは、心理学ではケーススタディとして調べる価値があるのだろう。
私からすれば、一人の作家としての美術史をたどることでもある。
領域にとらわれてしまいがちな学問の世界にも自由さがあることを知らせ、心理学とアートに、共通性そして可能性を見出せたこと。
それが多くの人に共有、共感できたことは、本当に有意義な展示だったと思う。