topreviews[オノ・ヨーコ「Passages for Light / 光の道」他/京都]
オノ・ヨーコ「Passages for Light / 光の道」他
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京都精華大でのパフォーマンス(提供・京都精華大学)

光の音楽―オノ・ヨーコ
TEXT ハガミチコ

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京都精華大での講演の様子(提供・京都精華大学)
今年の12月も、オノ・ヨーコが日本にやってきた*1。
さまざまな顔――音楽家、美術家、平和を呼びかける活動家、有名人(ジョン・レノンの妻)etc.――を持つオノだが、今回の来日では、横浜トリエンナーレへの出品、学習院女子大での学生企画による個展「Bell Of Peace」の開催など、久しぶりに彼女の美術家としての顔が目立ったようだ。オノの他の顔については、よりうまく伝えてくれる別の媒体にまかせ、ここではアートの文脈から見てみたい。

今回、オノは、東京(学習院女子大学)、横浜(横浜トリエンナーレ)、京都(京都精華大学)で講演をおこなった(写真a)。横浜トリエンナーレには《CUT PIECE》が出品されていたし、学習院女子大の展覧会では『Grapefruit』に収められたインストラクションが展示されるなど、それぞれの会場で彼女の初期作品を目にすることができた。京都でも、彼女が1964年頃に、東京の街頭で個人的におこなっていたイヴェント(道ゆく人々に花を渡すというもの)を髣髴とさせるパフォーマンス「Flower Road」が催された(写真b)。

三つの講演では、近年の彼女の二つの活動が、映像を使って紹介された。
一つ目は、昨年アイスランドに完成した《Imagine Peace Tower》。特殊技術によって、地上約30mにまで立ち上る青白い光の塔だ。この塔には、「世界最北に位置する首都(レイキャヴィーク)から「平和の光」を発信し、世界を包み込む」という意味が込められているそうだ。ちなみに、すごい電力が必要なのでは…?と思うところだが、環境への取り組みが進んだアイスランドの地熱発電を利用しているとのこと。(とはいえ、アイスランドの国家破綻が懸念される現在なので、この塔の行く末、少し心配だ。)

 
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《ONOCHORD》のためのライト、横浜ver.(撮影・筆者)
もう一つは、《ONOCHORD(オノ・コード)》。これは、「I love you.」と言うメッセージを、「○(I)・○○(love)・○○○(you)」というリズムに置き換えて光を明滅させ、互いに伝え合うというもので、講演来聴者には、ONOCHORDのためのライトが配られた(写真c)。これは、個人個人が世界に対して愛を伝えることが、平和のための第一歩であるという彼女の信念に基づく。MORSE CODE(モールス信号)に似ているかもしれないが、ONOCHORDでは、和音を意味するCHORDという語が使われている。つまりこれは、信号というよりも音楽であるらしい。
フルクサスと連動していた1960年代の仕事で、壁に向かって叫ぶこと(《VOICE PIECE for SOPRANO》)や、一週間笑い続けること(《LAUGH PIECE》)を、音楽と呼んだオノである。世界中の人々が、光の明滅で愛を伝え合うこと――これもまた、ひとつの彼女の音楽作品なのだ。

これら二つの、光を用いた作品がオノの近年の活動であるらしい。光というテーマは、彼女の最初期の作品の中に既に見出せる。「マッチを擦って、消えるまで見つめること」という指示の作品、《LIGHTING PIECE》は1955年に構想されている。オノの原点ともいえるこの光のテーマは、以後さまざまな形に変遷されている。1965年の「ONO'S SALES LIST」の建築の項にも、プリズムからの光でできている《LIGHT HOUSE》という形で、それは現われた。(補足だが、このセールス・リストはオノの作品集『Grapefruit』に収録されている。)その「光の家」を買いたいと申し出たのが、ジョン・レノンだったそうだ。とはいえ、コンセプチュアルな作風を展開していたオノは、もとよりそれを実体化しようとは考えておらず、結局その家が作られることはなかった。その出来事から40年を経て、その約束がImagine Peace Towerとして実現されたのだという。この塔は、彼女の光の美術の到達点なのだ。

光の塔が、構想された当初は実現不可能な、頭の中にだけある作品であったということ、そして、その不可能性を克服して実現したものであるということは、とても示唆的に思われる。想像力は、実現するためにこそ存在するということ――つまり、彼女の言葉にあるように、「ひとりで見る夢はただの夢、みんなで見る夢は現実になる」のだ。

光の実現というのは、ある意味で特殊なものだ。オノが60年代に多く製作した「…を想像しなさい。」といった、コンセプチュアルな指示の作品を、「無形」(作品は頭の中にしかないという点で)であると考えるならば、ミニマルな作品――とりわけ80年代のブロンズによる作品は、具体的な物質であり「有形」なものである。それでは、光はといえば、それは視覚に映るが、同時に実体を持たない。ちょうどそれは、有形と無形のあいだのようなもの。光のその正体は、音と同じく、「波」としてとらえられるだろう。
それならば、この光と音の「波」は、実体を持たない故に、空を伝わり、洩れ出て、世界へと浸透し、じわじわと広がっていくだろう。きっとオノ・ヨーコのいまは、そんな光の時代なのだと感じた。

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京都精華大の学生たちの作ったピースマーク(撮影・筆者)

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「人生はマーチよりダンス」と提唱し、学生たちと踊るオノ・ヨーコさん(提供・京都精華大学)

 

京都精華大では、講演が終わって会場の外へ出た私たちを、花弁で描かれた巨大なピースマークが待ち受けていた。(写真d)パフォーマンスの際にオノが通った道に撒かれた、1万本分のバラの花弁を使って、学生たちが自発的に作ったのだという。 指示書のないこの行為は、いわば返された光のリフレクションだろうか。

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ジョン・レノンの命日(12/8)に開催されるDREAM POWERジョン・レノン・スーパーライブに出演するため、オノは2001年以来、1年に1度12月前後に日本にやってきている。昨年の来日では、ドキュメンタリー映画『PEACE BED アメリカVSジョン・レノン』公開の舞台挨拶に出席した。


学習院女子大学開学10周年記念国際展覧会
「オノ・ヨーコ BELL OF PEACE平和の鐘展」

2008年10月20日〜2009年1月25日
講演会:2008年11月26日
横浜トリエンナーレ オノ・ヨーコレクチャー
「Passages for Light / 光の道」

2008年11月30日
京都精華大学創立40周年記念事業YOKO ONO LECTURE & PERFORMANCE「Passages for Light / 光の道」
2008年12月10日
 

著者プロフィールや、近況など。

ハガミチコ


LESSONやってます。@関西
http://www.lessons-in-progress.org/





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