私はゆらぎたくない
TEXT 藤田千彩
ここ数年、美術業界では「青田買い」と呼ばれる、学生や卒業したての作家をコマーシャルギャラリーで展示する傾向が見られる。
彼らにどんな素晴らしい作品を作ることが出来るのか。
さらに次を求められて進んでいけるのか。
大学を卒業してしばらく経って現代美術に飛び込んだ私からすれば、メンタルも含めて疑問を感じることは多い。
今年東京藝術大学を卒業したばかりというAKI INOMATAの作品は、会場に1点しかなかった。
それ以外の活動は知らない。
しかしその1点は、すこぶる単純なものだ。
天井からしたたる水。
その水滴を受ける透明なハコ。
水滴から広がる波紋が、照明に照らされる。
透明なハコから漏れる波紋の影は、白い会場全体、床や壁に広がる。
丸い円状の影は、だんだんと大きくなっていく。
ただそれだけ。
そのシンプルさに欲のなさを感じる。
そう、私はもてはやされている若い作家たちに貪欲さを感じ、侮蔑していたのだ。
アートマーケットやオークション、国際美術展などあらゆる方向のアートシーンがうごめく現代。
どれが正解で、どれがいいかなんて分からない。
AKI INOMATAの作品で、平和な静けさ、アートとしての無垢なものを思い出すことができた。
と同時に、この作家が青田の中でゆらいでいるような心配もする。
水の波紋にゆらぎながら、私はゆらぎたくないと感じた。