topreviews[アーティスト・イン・レジデンス2008 ロイック・ストラーニ『神様の味』 /京都]
アーティスト・イン・レジデンス2008 ロイック・ストラーニ『神様の味』
本堂を模した箱に投影。左右に光る神紋は蓮根模様!
神様はイタリアンがお好き?
TEXT 木坂葵

映像の横には、物語の中で考案された料理がお供えされているインスタレーション。

   
  会場風景

 
 レストランで出された食べ物を残しても、ウェイトレスに「食べ物を粗末にするとバチが当たりますよ」と言われることはない。だって、『お客様は神様です』もの!
この、「神様」と「料理」をとり合わせて作品にしたのが、京都芸術センターでの三ヶ月のレジデンスを行なったイタリア出身の作家、ロイック・ストラーニによる映像作品『神様の味』である。 

 本作品では、歴史をアレンジした奇想天外なストーリーが展開されていく。時は2000年前、ローマ軍は日本列島のすぐそこまで勢力を伸ばしていた。ローマ皇帝ジュリアス・シーザーとローマ軍偵察は、日本を征服する為の策略を考える。「神様のいる場所」に侵入するのは禁止、というローマの掟を破らずに社寺を征服するために、おいしい食べ物で神様を社の外へおびき寄せて連れ出すという方法を思いつく!
そこで、ローマ軍偵察は、神社やお寺へ出向き、境内のおいなりさん、ひしゃく、狛犬にはじまり、神主やお坊さんに声をかけ神様の好物を聞き出すが、どうもトンチンカンな答えが返ってくる…。
戸惑いつつもシーザーは、それぞれの神様が好みそうなイタリア料理を考案する。パスタ、ラビオリ、スップリなど、日本の神様は口にしたことのない料理ばかり。お供えすると、まんまと神様は食べ物につられて、お寺や神社は次々と征服されていく…。

 「料理はコミュニケーション。古来の文化では、野菜は神様と人間の間にあり、お供えするという行為は、神様に自分の感謝の気持ちを伝える役目を果たしていたのです。」とストラーニは説明する。
京都での滞在中は、社寺のリサーチや子供を対象にしたワークショップを行ない、作品を作り込んだ。
映像は、本堂を模したテレビ大の箱に社寺の風景がプロジェクションされ、シーザーとローマ軍偵察は影絵で登場する。昔話のような語り部に加え、「スミマセ〜ン、ココノカミサマハナニガスキ?」「コンニチハ。スキナヤサイアリマスカ?」というおかしガイコクジン風のローマ軍偵察の台詞(声はストラーニ)。構成はバラエティ番組のようでもあるが、図らずも日本人の笑いのツボが押さえられた、なんともゆる〜い空気が流れている。
素直に笑い楽しめるこの作品を語るのに、風刺や教訓といった言葉はふさわしくない。けれども、自分の食べるものは、自ら耕し、収穫し、大地の恵みに感謝し食べる、という一連のプロセスは現代では失われ、食=いのちは、食=消費となった。そして、人間が何でも作り出せることによって、神様の存在はゆらいだ。信仰心は薄いが、漠然と「かみさま」の存在を心の片隅で信じる現代の私たちーそういったメッセージがほどよく練り込まれた、文字通り味わい深い作品となっている。



アーティスト・イン・レジデンス2008
ロイック・ストラーニ『神様の味』


京都芸術センター(京都市中京区) 
2008年6月27日〜7月13日
 
著者プロフィールや、近況など。

木坂 葵(きさか あおい)

1978年新潟生まれ。コラム『ベルリンアート便り』の後は、地元関西での展覧会レビューを書いていく予定です。
ブログ始めました
http://ioaka.blog70.fc2.com/




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