※注:角ぐむ(つのぐむ)
先のとがった葦が、沼の水面から芽を出しかけている状態が、あたかも角が出てくるようなので、「角ぐむ」と言います。
『早春賦』(唱歌)の歌詞の2番に出てくる言葉です。
「芽ぐむ」と同意語で、葦だけではなく芽が出てくるようすにも使われます。 |
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下記の『五十五番』は、交わされた最後の葉書。
小林と岡田のイメージが近づいた気配がある。
小林は「本当に沈黙しながら・・・ただお互いに、待つ。その行為は尊い時間だった」と振り返る。
返事を待つ間に、日に日に変化していく自身の気持ち・・・投函前後の気持ちの差異。
待ち焦がれた葉書が届く喜びと岡田とのイメージの差異。
彼女はこの差異に高揚し、あるいは自身へ失望を投げかけながら再び描き、投函する。
それと同時に立体に起こすことで、姿のない鬼に追われる立場から追う立場へと、逆転の行動に出るのだ。
「待つ」という心根で張り巡らされた沼地に潜って掘り起こし、出てきたものは、切り口の美しい角の形をした種…これは、生えかわるため自然に落ちた小林の角かもしれない。(f『根拠を絶つ』)
そして、小林が見た鬼とは、水面に映った「角ぐむ(※注)」自身の姿ではないだろうか。
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