a
|
 |
d
|
 |
b
|
 |
c
|
a) (左より)《bloom
drumroll》《march drumroll》《bloom in march drumroll》
ともにキャンバスにアクリル絵の具、木製パネル 各15×15×2.5cm 2008 b) (左より)《bloom
papilio》《march papilio》《bloom in march papilio》ともにキャンバスにアクリル絵の具、木製パネル 各15×15×2.5cm 2008 c)(左より)《bloom》《march》《bloom
in march》ともにキャンバスにアクリル絵の具、木製パネル 各15×15×2.5cm 2008 d)《bloom
in march papilio》キャンバスにアクリル絵の具、木製パネル15×15×2.5cm 2008
|
見ているようで見えていない事象をえぐり出す
TEXT 田中由紀子
展覧会DMを見て、「近藤ケイジャン」という初めて聞く風変わりな名前に目が留まった。男性なのだろうか、それとも女性なのだろうか。日本人なのだろうか、はたまた外国人なのだろうか?
しかし、それ以上に私がとらわれたのは、DMに印刷されていたアゲハ蝶が描かれた作品だった。なぜなら、写実的に描写された蝶は、地図らしきものの上を飛んでいるようでもあり、標本のように貼り付けられているようでもあったからだ。
15cm四方のキャンバスにアクリル絵の具で描かれた《bloom in march papilio》と題されたその作品は、今回の展覧会タイトルにもなっている9点組の〈Bloom
in March〉の一枚。アゲハ蝶、迷彩柄の戦闘機、赤い花、地図がペパーミントグリーンの地の上に、戦闘機と花と地図、戦闘機と地図、戦闘機と花、蝶と花と地図……という具合に組み合わされて描かれている。そこではこれらをゲームのアイテムのように機械的に組み合わすことにより、作家自身の問題意識を露わにすることを
巧妙に避けているという印象も拭えなかった。
〈Bloom in March〉の「March」には、「3月」のほかに「行進する、行軍する」という意味があり、そこから花が咲き誇る春と軍隊のイメージを重ねたという近藤。戦争や軍隊を想起させるモチーフを選んだのは「私自身の興味というより、観る人の内にあるそれらに関する考え方をあぶり出すため」であり、「花を見て爆撃を連想するのも平和を連想するのも観る人の自由でいいし、そこから発想を広げて楽しんでほしい」という。
調べてみると、「March」にはさらに「国境」という意味があり、地図が多用されていることも頷けた。と同時に、こうしている今も国境をはさんで一触即発の状態にある国々や地域のことが脳裏に浮かんだ。これも調べてわかったことだが、花形に切り抜いた世界地図を何枚か重ねてコサージュのようにした《bugles》の作品名が、西洋十二単という花の英名であるとともに「軍隊ラッパ」を意味する語であったのも偶然ではあるまい。近藤は、花や春のイメージに隠れたキナ臭さを顕在化させることをとおして、私たちが見ているようでいてじつは見えていない事象をえぐり出そうとしているように私には思えた。
今回が初個展だというこの作家は、略歴、展覧会歴は一切非公開だという。男女の別や年齢、出身大学など既成概念にとらわれずに作品を見てほしいという作家の意向だそうだ。たしかに、私たちは無意識のうちにそれらから作家像を作り上げ、作品を見てしまうことがしばしばある。プロフィールは作家や作品を理解す
るきっかけにはなるが、それに惑わされて見えていないものがあることに、あらためて気がついた。
e)《bugles》地図、ハトメ、マップピン 64×64×1.2cm 2008
f)《March off the Field》花形に穴を開けた地図 100×120.8cm 2008
g)《Horn; bloomin'hawk》クス材、アクリル絵の具、植物油ワックス 20×15×16cm 2008
h)《Drum; bloomin'dove》クス材、アクリル絵の具、植物油ワックス 11.5×33×46cm 2008
i)展示風景