topreviews[ビデオ・ランデブー:映像の現在/大阪]
ビデオ・ランデブー:映像の現在
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  a.豊嶋康子
発生法 (Origination 1998/60min.)

b.リサロッテ・ワイスト
the city sami in the woods (2007/4min.)

c.岩淵拓郎
a meaning for the view - Nipponbashi - Dec 20,2007(2008/40sec.Each)
フィクション≒ノンフィクション??
TEXT 木坂 葵

 私が子供の頃は、テレビ電話なんて夢のような話だったのに、今やパソコンや携帯で簡単にできる。
5歳の姪っ子が、おもちゃと一緒にポータブルDVDプレーヤーを持参して我が家へやって来たり、デジカメも使いこなしている姿を見ていると、映像・通信技術の進歩と普及はすさまじいなあと感じる。
そんな私たちの身の回りに溢れるようになった映像メディア・映像文化の可能性を探る視点から企画された「ビデオ・ランデブー:映像の現在」展は、いわゆるビデオアートやメディアアートに加え、ドキュメンタリーや映像ワークショップでの成果物など、広く映像文化に関わる作品で構成されている。 

 豊嶋康子の『発生法』(a)は、分数の足し算引き算の問題用紙と、それを解いていく人物の手もとだけが延々と映し出される作品。あまり計算が得意ではなさそうなその人物は、時に間違ったり、手を止めたりゆっくりと問題を解いていく。観ていると「遅〜」とか「ちょっと!間違ってますよ!」とツッコミを入れたくなり、いつの間にか一緒になって問題を解いている自分に気づく。爆音、ショッキングな映像、テロップになる発言内容など、人々の注意を引くために取られる様々な映像上の仕掛けなんてどこ吹く風、と、鉛筆の音とエンドレスな計算問題は、いとも簡単に私たちを映像に引き込んでいく。

 リセロッテ・ワイストの『the city sami in the woods』(b)(他3作品)は、スウェーデン人の父親とサーミ人の母親を持ちながらも、サーミ人の文化と接点のないまま育った作家自身が、少しずつその文化を学んでいく姿を映す。現代的な生活を送りながらも、ワイストは伝統的な民族衣装を身にまとって森を歩いたり、身体の部位など身近なところからサーミ語を覚えていく。「私」というアイデンティティを追求する姿を、カメラを通して自分自身の物語として描いている。

 岩淵拓郎の『a meaning for the view』(c)では、言葉とその意味が書かれた小さなプレートが登場する。例えば、「習慣」と書かれたプレートは、人々が行き交う駅のロータリーに、「退屈」という言葉はキッチンにぽつんと設置される。それは、言葉と言葉が想起させるイメージを視覚化した映像の連想ゲームのようだ。日常の一場面が切り取られ、視覚化された言葉とセットになることで、どこかのありふれた風景は一瞬にして自分にとって身近なものに変わったような感覚が生まれる。
そして、合間に挟まれるめくってもめくっても "everyday" "oneday"と書かれた日めくりカレンダーの映像(『living with calender』)は、変わり映えのしない気怠い一日を醸し出し、クスリと笑ってしまう。

 
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 一方、詩人の谷川俊太郎が80年代初頭に撮った『songs without words』(d)では、何も起こらない平凡な一日の愛おしさが描かれている。ピーピー鳴りだすやかんで朝が始まり、くつろぐ猫、壁に映る水の影、土手の工事現場など、谷川の自宅と近所の風景が点々と繋ぎ合わされ、やがて日が暮れて一日が終わっていく。極めて簡素な撮影方法でありながら、静かにゆったりと流れる時間がストレートに伝わってきて、観る人の心をとらえる作品だ。

 ドクメンタ10の招待作品として制作されたヨハン・グリモンプレの『Dial H-I-S-T-O-R-Y』(e,f)は、1930年代から70年代にかけて世界中で起こったハイジャック事件に関するテレビ映像を主にサンプリングして作られたドキュメンタリー作品だ。テレビの普及・映像技術の発展によって、生身の人間の惨事がお茶の間に流れるようになり、テレビ中継で事件はスペクタクルと化し、ヒーローとヒロインが産み出されていく過程が描かれる。ポップなディスコチューンに乗せて、爆破された飛行機やテロリストのインタビュー映像が息つく暇も与えないテンポで展開していく衝撃的な作品だ。

 同じく、ヨハン・グリモンプレ+シャルロット・レウゾン『たぶん空の本当の色は緑で、わたしたちが色を判別できないだけなのかも知れない』(g)も、インターネットなどで発信されている映像をサンプリングしている。女児のお姫様変身玩具の中には鼻整形・豊胸手術の道具が入っているというCM、エイリアンがアフリカの街に上陸するというドキュメンタリー風ドラマ、銃を売るテレビショッピング番組など、笑うに笑えないようなパロディが多い。

 最後に、会場で異彩を放っているイルコモンズのインスタレーション『イルコモンズ インフォショップ』(h)。(インフォショップとは、文献やポスターなどが置かれるアナーキストの情報交換の場のことで、世界に多数存在する。)ブッシュ大統領のポスターめがけて行なう卓球台、コンビニのレシートに覆われたトルソー、G8反対のデモに使われた幕、本や映像資料などが所狭しと並ぶ。一見、映像の展覧会との関連性を欠いているように写るかもしれないが、イルコモンズは、前述の映像作品と同様に、映像メディアを通して発せられる情報によって出来上がる「常識」、消費の煽動、権力が生みだす搾取などに対して徹底的に抗い、行動を起こす。展示は、作品というよりは「ミクストメディア・アクティヴィスト」としての表明といえる。

 どの作品の中にも、ラディカルな「出会い」が待っていた。
フィクションのようなノンフィクション?
ノンフィクションのようなフィクション?
その境目があやふやな映像に囲まれ、長年わたしたちの身体に刷り込まれてきた映像を理解する為の文法は覆される。
私たちは映像に何を期待し、何を観ているのかをという問いを投げかけてくる展覧会であった。

d.谷川俊太郎
songs without words (1982/17min.)

e.f.ヨハン・グリモンプレ
Leila Khaled commandeers TWA Boeing 707 into 7-min detour over occupied homeland, August 1969
Photo: Johan Grimonprez and Rony Vissers
INFLIGHT, Johan Grimonprez, 2000
Published by Hatje Cantz, Stuttgart
DISTRIBUTION DAP, New York
(C) 2000 Johan Grimonprez
Three hijacked jets on desert Airstrip, Amman, Jordan 12 September 1970
Dial H-I-S-T-O-R-Y, Johan Grimonprez, 1997
Photo: Johan Grimonprez and Rony Vissers
(C)1997-2003 Johan Grimonprez

g.ヨハン・グリモンプレ+シャルロット・レウゾン
"Maybe the sky is really green and we're just colorblind", Video Library
curated by Johan Grimonprez and Charlotte Luzon, 2007.

h.イルコモンズ
イルコモンズ インフォショップ

i.会場風景

(画像提供)NPO法人 記録と表現とメディアのための組織 [remo]



ビデオ・ランデブー:映像の現在

場所:大阪市立近代美術館(仮称)心斎橋展示室(大阪市中央区)
2008年1月10日〜1月20日
 
著者プロフィールや、近況など。

木坂 葵(きさか あおい)

1978年新潟生まれ。コラム『ベルリンアート便り』の後は、地元関西での展覧会レビューを書いていく予定です。




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