topreviews[日本の新進作家vol.6 スティル/アライブ /東京]
日本の新進作家vol.6 スティル/アライブ
 
severalなvisualがみられる
TEXT 藤田千彩

80年代初頭の「美術手帖」を読んでいるとき、
モノを床に並べたインスタレーションらしき作品を
「半彫刻」と表記してあったように記憶している。

先日取材で、建築系の人と話をしたとき、
「インスタレーションを見るとき、時間も含まれますからね」
と言っていたのが印象的だった。

これらはモノのとらえかた、つまり概念の問題なのだろう。
今回の「スティル|アライブ」展は、
「概念」を、大げさにいえばくつがえされる、そんな展覧会だった。
 
まず会場に入ると、暗い部屋に2面スクリーンで映像が流れている。
伊瀬聖子の《Swimming in Qualia》、
映し出されるのは、人の影、花、景色。
音(音楽)は会場に流れているが、
会場の壁に取り付けられたヘッドホンでも聴くことが出来る。
同じ映像を、1面では24分、それをもう1面では6分という再生スピードで流している。
と言われないと、気づかない。
ちょっと見入ってると、同じシーン(のようなもの)が2つの画面に見えた。
あれ、これは同じ?と気づく。
私たちは、映像をゆっくり眺めること、たった数分のことなのに、足を止めない。
「2つは違う」とか「ああ、映像ね」と瞬時に判断してしまう。
それは作品に失礼であるという話ではなく、
自分が持っている価値の狭さを問われている気がした。
ちなみに実際の映像は、重ならないように再生されている。
《相武台高校 卒業式会場》2007年
次の部屋は、ぱっと明るく、同じような写真が並んでいる。
屋代敏博の「回転回シリーズ」、回っている人を撮影している作品シリーズである。
今回はすべて大学や高校といった学校が舞台で、
会場中央には、屋代が出向いた学校での制作風景のビデオが流されている。
なぜ学校か、というと、今回キュレーションをした学芸員は教育普及担当だからだ。
今回の参加学校は15校。
ビデオを見ていると、学生や生徒たちは、楽しげに屋代の言うことを聞いている。
あえて書かないが、こうやってこの作品は出来るのか、私も参加したいな、と思う。
そして壁を見遣ると、写真という一瞬を切り取った媒体で、楽しそうな雰囲気そのままに感じとれるのだ。
シャッターを切るのも、記録のビデオをまわすのも、その場にいた人たち。
制作の大変さよりも、屋代の真剣さや会場の楽しさを分かち合っているからこそ、
撮影された瞬間にすべてが詰まっているように見えるのだろう。
続いての部屋、大橋仁の写真に驚かされる。
海外で撮影されたという写真群は、とりとめもない。
海辺の水面はひたひたと、ぴちゃぴちゃと、音が聞こえそうだ。
女性や犬などが被写体の、ちりばめてある写真は、
1つずつ見ても、引いて見ても、そのランダムな並べられ方を見ても、
どういう見方でも面白いなあと純粋に思う。
売春婦のような女性たちが写る画面も、見たことがない光景だな、
男の(夜のあるいは闇の)世界って、欲より気持ち悪さもあるのだなと感じる。
一番大きな、壁一面を覆うような、たくさんの女性の写真には複雑な気持ちになる。
絶対ヤバそうだ、なぜ皆髪の毛が長い、胸のプレートは何、
人種、職業などの差別や偏見、ものすごい考えてしまう。
こんなにバラバラなのに、なぜ目をそむけることも嫌悪感も感じない。
「全部同じ、高いテンションで撮ってます」と大橋が言うように、
均一した緊張感があるから、私もこの写真群と向き合えるのかもしれない。
最後は田中功起の映像インスタレーション《家がガーデンテーブルになり、瓶ビールの消息がわかり、バンドが演奏するとき》。
ボウリングのピンがビール瓶になっている。
ここは恵比寿、ああビール、と笑いがこみ上げる。
映像はサッポロビールの千葉工場、一日掛けて撮影したそうだ。
「瓶を清浄する」と「ビールをつめる」の2つのビデオ映像が、
2つのモニターから流れる。
このビール工場の映像作品と、
「家や建造物を壊してテーブルを作る」というインスタレーションが、
どういうわけかミックスされてつながっている作品なのだ。
ボール、それも素材がいろんなものがあって、それぞれに何かを思う。
一人では楽しみを分かち合えないので、誰かを求める。
壁にはカフェにビールがあることが書いてあって、ますます誰かと来ればよかったと後悔する。
つながりたい、つながっていたい、つながる。
というのがこの作品のテーマらしいが、
「つながる」こともいろんなことがあるようだ。
簡単に言えば、写真をつなげれば映像になる。
人もつなげれば、大きなつながりになる。
 
形や時間、目に見えるものだけが正しいわけじゃないし、理解されるものじゃない。
概念は、簡単には伝えられない。
自分だけのものかもしれないし、感覚的なものだからだ。
展覧会タイトルの「スティル|アライブ」も、最初見終わった後に疑問だった。
だけどこうして振り返ると、
普段気にすることもなかった「いま、ここ」という概念の大切さに気づいたのだった。


日本の新進作家vol.6
スティル/アライブ


東京都写真美術館(東京都・恵比寿)
2007年12月22日〜2008年2月20日
 
著者プロフィールや、近況など。

藤田千彩(ふじたちさい)

1974年岡山県生まれ。
大学卒業後、某通信会社に勤務、社内報などを手がけていた。
美学校トンチキアートクラス修了。
現在、「ぴあ」「週刊SPA!」「美術手帖」などでアートに関する文章を執筆中。
chisaichan@hotmail.com




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