そこにも「作品」がある
TEXT 藤田千彩
稲毛（いなげ）は、総武線で千葉駅の一つ手前にある町だ。
稲毛駅から歩いて15分ほど、大型店が立ち並ぶ国道14号線沿いにある千葉市民ギャラリー・いなげが、
「Chiba Art Flash」の会場である（画像A）。
２つの建物からなっている。
本館は、天井が低く、間仕切りもこまかくて、家のようだった。
ひとつひとつの部屋に、それぞれ作品が置かれている。
荒井恵子は墨や藍の廃液などを和紙にぶちまけた、激しさのある作品を展開している。
けして色は派手ではないのに、強さを感じさせてくれる（画像＝B,C）。
秋山保久のオレンジやブルーは鮮烈だ。
その配色は私には整然とした感じがして、なにかポスターとかデザインの一部を見ているかのように思えた（画像D）。
二階に上がる。
立花光朗の立体は、流木や廃材で生まれたものだという。
繊細で美しさを追求した作品に、材料が持っていた過去は感じることはない。
ただひたむきに存在する、今の美しさに見とれてしまう（画像E）。
伊藤みちよの作品は陶で作られており、マンションや家の部屋のような箱状のものが積み重なっている。
小さなバスタブとか置かれた家具にくすっと笑いが出てしまい、
同時に、自分ののぞき趣味に嫌悪感も感じる（画像F）。
百田智行の平面作品は、左右のストロークの激しさと上下の塗りの強さに圧倒させられる。
私は色づかいも好きだと思い、大きな画面と対峙する作家の姿を想像する（画像G）。
そして外へ出て、隣の神谷別邸へ。
この建物は別荘として作られ、千葉市内でもっとも古いコンクリート製のモダニズム建築。
しかも国登録有形文化財とのこと、照明具や階段のつくりにも見とれてしまうのも無理はない。
そんなモダンな洋館の入口には、深井聡一郎の作品が置かれている。
髪の毛のようなものが流れている作品も、入口にある人体像も、部屋の中にある人体像も
すべて同じ《the hair of the statue is growing》というタイトルがついている。
洋館にはこういった像がとても映える。
見せ方がうまいのか、作品の力があるのだろうか（画像H,I）。
二階へ。
大場匠のガラスによるインスタレーションは、せまいスペースにガラスを置くという緊張感を持たせている。
形はきっちりしていない吹きガラスが、その緊張感を緩ませてくれているようでもある（画像J）。
ASADAが残したぬけがらは、机の上にきれいに置かれていた。
よろいのような衣服のようなそれは、畳の部屋中に広がる他のASADA作品との境目がよく分からなかった。
しかし敷き詰められた陶器の破片ひとつひとつが、よろいの人の皮膚とかよろいの人が残した置手紙とか、
意味があったりするのかもと想像したら、ちょっと怖くなった（画像K）。
西澤利高の「LOOP KUDA」は蛇の抜け殻のような作品。
管に穴が開いているだけと分かっていても、その形状についつい見入ってしまう。
タイルに点描している作品もあった。
廊下の隅の、床の間のような場所にあったせいか、とてもかしこまったものに思えた（画像L）。
最後に地下へ。
白水ロコの立体作品が、薄暗い部屋にいくつも並んでいる（画像M,N）。
《孔雀》や《雲雀》とタイトルがついた動物たちが、円を描くように立っている姿は、なにか儀式的なものも感じる。
地下というスペースのせいか、非現実の世界にもぐりこんだような不思議さを感じてしまう。
地下から地上へ、そして外へ。
現実に戻る、そんな気持ちになるまでしばらく時間が掛かった。
「極私的空間からの・・・」というサブタイトルが、すっぽり私の中にハマった。
個性ある作品とそれなりの時間向き合うことによって、それまで持っていた自分の感覚が失われてしまう。
それこそ美術作品を鑑賞する楽しさでもあり、実は快楽でもあることを再確認した展覧会だった。
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