topreviews[ANOTHER MOVEMENT 2007+金沢工業大学「月見光路2007」/石川]
ANOTHER MOVEMENT 2007+金沢工業大学「月見光路2007」 

1
2
 
   
3
 
4
  1.日比野克彦アートプロジェクト「ホーム→アンド←アウェー」方式
2.金沢駅
3,4.金沢21世紀美術館

芸術の秋、金沢の秋

TEXT 田中由紀子+藤田千彩

金沢へ行った(画像=2)。
金沢21世紀美術館(画像=3,4/金沢21世紀美術館)では、「パッション・コンプレックス:オルブライト=ノックス美術館コレクションより」もとても面白かったし、日比野克彦アートプロジェクト「ホーム→アンド←アウェー」方式で、美術館を覆うように蒔かれた朝顔もまだ咲いていた。美術館の壁にも絵があった(画像=1)。

美術館の外では、「ANOTHER MOVEMENT 2007」というプロジェクトが行われていた。
いわゆる「街系」と呼ばれる、街に作品を点在させ、観客に街歩きとともに作品鑑賞をうながす。
この「ANOTHER MOVEMENT 2007」は2001年からはじまり、金沢21世紀美術館が開館した2004年からは毎年行っているという。

 
5
6
7
8
5.めいてつ・エムザ屋上
6.青山健一のインスタレーション
7,8.飯田淑乃による「ヨーコヤスエ」
 
まずは武蔵ヶ辻でバスを降りる。バス停の前にあるめいてつ・エムザというデパートの屋上へ。そこはがらんとしている広場だった(画像=5)。作品がどこにあるのか、という不安に襲われながら、もしかしてこれ?という期待で、屋台のようなものへ近づいた。青山健一の、なるほどと思わせるインスタレーション(画像=6)。昔は人も多かった屋上や楽しかった日曜日のように、広場とどこまでも高く広がる空の下で、その作品部分だけがにぎやかな様子をかもし出していた。

そして街を歩き、エフエム石川へ。放送局のショウウィンドウには飯田淑乃扮するジャズシンガー、ヨーコヤスエのポスターと等身大ポップが飾られている(画像=7,8)。彼女は展覧会を行う土地のご当地キャラクターを勝手に作り上げ、彼女から見たその土地らしさを作品展開するアーティスト。だからこのポップとポスターも作品の一部。よく見ると、彼女の黒い帽子のつばには、真っ青な卵を抱えた大きな甘エビが! 「金沢といえば甘エビ」ということらしい。ポスターにはご丁寧にサインまで入っており、まるで放送局にプロモーションに訪れたかのよう。彼女を本物の歌手と思っている金沢市民も、少なくなさそうである。
 
そこから横安江商店街に入ると、ヨーコヤスエののぼりが道沿いに十数本立てられている。歩いている間に聞くことはできなかったが、彼女がリリースしたCD「ANOTHER MOVEMENT」が30分間隔で商店街に流されているそうだ。ところで今回のキャラクターの名前、ヨーコヤスエは何にちなんだものだろう?
あとで聞いたら、地名の「横安江」から「ヨコヤスエ」→「ヨーコヤスエ」となったのだとか。

 
10
11
12
10.中野キミオの作品
11.花のアトリエ こすもす外観
12.安田辰雄「カエルの食卓」
13.安田辰雄の他の作品
13
商店街にある花のアトリエ こすもす(画像=11)の3階には、フィギュアクリエイターで映像作家の中野キミオの作品が展示されていた(画像=10)。彼がつくる人形には名前や年齢、職業、家族構成などが設定され、表示されている。見る人にとっては何の関係もない人物設定なのだが、「会社員・一男一女の父」などとあると急に親近感が沸き、人格を持っているように感じるのが不思議だ。
作品の中でひときわ目立つのが、等身大よりも大きな2体のフィギュア、菊池さんとその恋人のマチ子さん。展示スペースは茶の間と寝室に設えられ、テレビモニターには菊池さんがマチ子さんにプロポーズするストーリーが映し出されている。仕事中に居眠ったり社員旅行の宴会で盛り上がったりする菊池さんには、私たちが映し出されているようだ。ふたりが座る丸テーブルにつくと、私自身もフィギュアのひとつになってしまったような妙な気持ちになってきた。

同じ商店街のギャラリー喫茶collabonで、会期中限定メニューのコーヒー、アナムーブレンドで一服。店の奥には大きなカエルが並んでいる(画像=12)。ほかには鼻腔から鼻毛をのぞかせた大きなお面もあり、手にとって遊ぶことができた。厚紙でつくられたこれらの安田辰雄の作品は、一見、図画工作といった趣だが親しみやすく、計算された無駄のないデザインは、飽きることなく私たちを楽しませ、コーヒーブレイクをくつろがせてくれた(画像=13)。

 
 
14
15
16
17
 
14.霜田あゆ美の作品
15.霜田あゆ美の作品群
16.山本太郎の作品
17. 前川栄子のイラスト作品
     
商店街を抜けて、岩本清商店へ。しぶい名前の店舗は、金沢の桐工芸の工場兼住居とのこと。入口である土間に霜田あゆ美の作品が展示されている(画像=15)。じっくりみると、これは刺繍のようだ。しかしただの刺繍ではなく、日記のように細かく出来事や物が描かれている。手づくり具合が楽しさを増す。ひとつひとつ眺めていても飽きないどころか、心地よい感覚になってしまうほどだった(画像=14)。

そこから東山方面へ。本町と呼ばれるこのあたりは、小京都、金沢らしい古い町並みが残るエリアだ。山本太郎の作品が展示されている銀の波 箔座は、古い町屋の内部を改装した銀箔商品のショップ。その2階の和室に展示された、金地や銀地に室内風景や自然の草花が描かれた屏風や衝立は、琳派を思わせる華やかな印象だ。しかし、本来は着物に使う衣掛けに風神雷神プリントの別布をあしらったようなジーンズや着物柄のミニスカートが掛けられた室内や、セイタカアワダチソウの根元に白いガードレールがのぞくさまは明らかに現代の日本の風景だ。伝統的な構図や描き方を借用しながら「いま」を描く山本の作品を見ていると、たとえば琳派の屏風に描かれた風景も、当時の「いま」であったことを気づかされる(画像=16) 。
 
 

街道を渡り住宅街に入りBooks&Cafe あうん堂を探すも、なかなか見つけられない。
やっと探し当てた店は、間口が狭くて奥に細長い古本カフェ。アナムーがなかったら、まず遭遇することはなさそうな場所だ。ここには前川栄子のイラスト作品が、さりげなく展示されていた。薄い紙に描かれた、自転車に乗る女の子やタバコをふかす女の子、ぽつんと佇む女の子といったモチーフがたびたび繰り返される作品を見ているうちに、「こんな子、クラスにいたな」「私も自転車通学していたな」と、自分と作品を重ねていくことができた(画像=17) 。

 
18
19
20
 
21
 
18.辻和美の作品
19.factory zoomer / shop外観
20.KiKUの展示
21.左・アニメーション 右・帽子
22.少年少女科学クラブの作品
22

 
そしてバスにまた乗り、「犀星文学碑前」で下車。
詩人であり小説家として知られる室生犀星の名前の由来である犀川を渡ると、factory zoomer / shop(画像=19)がある。手作りのガラスや陶器などの雑貨を置くショップらしい。「ギャラリーは上です」と声を掛けられ、「足場に気をつけて」と細い木の階段を昇る。するとぱーっと視界が明るくなり、見えてきたのは辻和美のガラスの作品。いくつかの球体が、ぶつからないように、ブランコのように、ゆらゆらと大きく揺れている(画像=18)。「近づくと危険ですから」と下から声がするまもなく、近づくことを躊躇するほどの揺れで球体が動いている。こんな大きなシャボン玉があったらいいな、とか、きれいだな、とか、思ってその動きに見入ってしまう。

川をまた渡って、今度は新堅町というエリアへ。小さな商店街のような町並みだ。
KiKUというショップは、手づくりのアクセサリーを売っているようなところ。また二階で展示だったが、この店は古い店舗を改装したのか、一階が吹き抜け状になっている二階。階段を昇るとロフトのような二階の床に魚が泳いでいる(画像=20)。伊能一三という作家による漆工芸の立体作品だ。落ち着いた色みの魚とたたみの上に広がるインスタレーションは、日本人である私にはついつい和んでしまう光景に見えた。

そして向かいくらいにあるギャルリ ノワイヨは、これまた手づくりのかばんや器などの雑貨が並ぶ店。そこで展示していたのは帽子作家のスソアキコで、赤リンゴと青リンゴをモチーフにした帽子と手描きアニメーション作品が展示されていた。(画像=21)帽子はこれからの季節にぴったりで、個性あふれる帽子が他にも並んでいる。赤リンゴと青リンゴは体裁よく並べられ、佐藤雅彦のようなアニメーションはついつい何度も見てしまいたくなるほどだった。

それからまたバスに乗り、金沢の中心部である香林坊へ。
しかし香林坊から歩いて10分ほど、町の喧騒から遠くなったような場所にある甘味処金花糖へ。店舗として使っているらしい古い家屋をくぐりぬけて、奥の茶室へ。
靴があったので、ついノック。「いいですよ」と男性の声。にじり口をおそるおそる開けると、薄暗い茶室になにやらチカチカ光るシャーレのようなものが。荷物を置き、知らない男性の向かいに正座し、私は息を整えた。すると・・・音楽が聞こえた。
少年少女科学クラブによる作品は、これまでも実験道具のようなものを使ってハイテクなことをしてきたらしいが、この茶室での作品もそんなかんじだ。男性は大きく息を吸うと部屋を出て行った。一人取り残された私は、部屋に静寂が戻るまでしばらく待った。光を放ちながら、この作品はまた音楽も発していた(画像=22) 。

23
24
25
26
27
 
お店を出て、工事をしている場所や猫が歩き回る道路といった現実と、これまで見た作品の違和感を感じていた。そこへさっと出てきたのが北岡哲の魚だ。トタンを使ったという魚が、小さな用水路を泳いでいたのだ。(23,24)この用水は天正年間(16世紀後半)に作られたという「大野庄用水」らしく、武家屋敷に沿って流れていた。そんな由緒ある用水を本当に大きな魚が泳いでいたら怖い。子どもはうれしそうに「ママ、魚!」とはしゃいでいたが。

他にも作品があったようだが、完全に見れていない。というのも、行った当日に休みだったり、夜しかやっていないお店での展示だったり、というためだ。



 
23,24.北岡哲の魚
28.月見光路・昼
29.月見光路・夜
25,26,27/金沢21世紀美術館の夜の光景

28
29

そしてもうひとつレポートしたいのが、夜は金沢工業大学による「月見光路」というイベント。学生に話を聞いたところ、サークルまでいかないが学生の有志が集まって、ライトアートを街中に点在させるというものらしい。実際昼(画像=28)と夜(画像=29)ではこんなに違うし、金沢21世紀美術館の庭部分も星型などのライトが点灯されて楽しそうだった(画像=25,26,27)。

こうして金沢での秋の一日は過ぎていった。
芸術の秋だな、金沢21世紀美術館も楽しかったし、金沢の街イベントもよかったな、と思いながら帰路についた。
 

ANOTHER MOVEMENT 2007

石川県金沢市のあちらこちら(東京都中央区)
2007年10月5日〜14日


金沢工業大学「月見光路2007」

広坂緑地公園、広坂通り、21世紀美術館前、石浦神社(石川県金沢市)
2007年10月11日〜13日
 
著者のプロフィールや、近況など。

藤田千彩(ふじたちさい)

1974年岡山県生まれ。
大学卒業後、某通信会社に勤務、社内報などを手がけていた。
美学校トンチキアートクラス修了。
現在、「ぴあ」「週刊SPA!」「美術手帖」などでアートに関する文章を執筆中。
chisaichan@hotmail.com

田中由紀子(たなかゆきこ)


編集関係の仕事をしながらコツコツ評論などを書いてます。
http://www.geocities.jp/a_rtholic/




topnewsreviewscolumnspeoplespecialarchivewhat's PEELERwritersnewslettermail

Copyright (C) PEELER. All Rights Reserved.