topreviews[旧中工場アートプロジェクト2007/広島]
旧中工場アートプロジェクト2007

  社会に、アートの「知」と「情」を!〜広島初・広島発
TEXT 友利香

この展覧会は、ゴミ焼却施設であった旧中工場を中心に、吉島地域、旧日本銀行広島支店という全く機能の異なる3つの会場、総勢約70組の作家で構成されている。
 広島で、このような大規模な展覧会は開催されたことはなく、広島にとって大切な第一歩となったプロジェクトである。

「超高品質なホコリ展」会場
岩崎貴宏《ディファレンシャル/インテグラル カリキュラス》[+zoom]
 
嶋田美緒《艶玉》の撮影シーン
(作品はマップピンに漆、花粉、ふけ)
 
机上には雑誌の褶曲と人物が作る楽しい世界が。
池田朗子《their site/your sigft(since2000)》[+zoom]
窓の結露には作家が暮らす部屋が映り込んでいる。
向井華子《untitled》[+zoom]
 
佐藤紫寿代《Butterfly》
この蝶々は、髪の毛で作られているので、先の先まで人のDNAを含みます。
危険な妖艶さを放つ蝶々です。[+zoom]

■『超高品質なホコリ展』
 於:旧中工場プラットホーム(スラグ置き場)


 旧中工場は、広島平和資料館真正面を海の方へ下ったつきあたりに所在する施設である。
「大きな建物・小さな作品」・・建物内はスラグを用いて展覧会会場へと仕上げられ、 どこかしら・・なつかしい原風景。

足元にはシャープペンの芯とケシゴムで創られた風景。
見上げると鳥が!
壁の時計の上には、工場内の埃から産まれた「ダストマン」が出現し、空間と時間を見守っている。
しばたゆりは、会場のあちこちに「スラグマン」「ダストマン」出没させ、この工場での展覧会として揺るぎない意義を持たせている。
 私たちが馴染んでいるものたち・・枕、雑誌、おもちゃ、掃除機の中の埃、ふけ・・猫の頭蓋骨(←馴染みはないけど)までが、遊ぶ自由さ、伸びやかさに満ちていて楽しい。
ここには、忘れられている物からの穏やかなメッセージがあった。
入場の際、紙袋が手渡されます。
中には、双眼鏡とルーペが!?
はて?これで見るの?
大きな建物なのに、入場制限!?
いったいどんな展示なの?
ドキドキします。
藤浩志《おもちゃ、くし》
「かえっこプロジェクト」の際、引き取り手がなかった悲しいおもちゃも、藤さんの手にかかり・・
ほーらね、こんなに優雅に飛んでいます!
シゲフジシロ+スウ゛ェン・ギースマン
《雑草》
これって、よく見かける風景ですねお惣菜ボックス、ビーズ、安全ピン[+zoom]
上)トム・フリードマン《untitled(cloud)》
枕用の詰め物
下)古堅太郎
《干し草の山の中で金の針を探す》
このスラグの山の表面にブラックダイヤがそっと置いてあるのですが、なかなか見つかりません。[+zoom]

■ 「わたしの庭とみんなの庭」展 於:吉島地域
 作品は、吉島公民館を拠点として周辺地区に点在し、日常的な作品で構成されている。
ここでは、地域と人、人と人とのコミュニケーションを楽しんだ。

「吉島公民館」
各会場には、淀川テクニックと市民とで作られた花輪が置かれています。
これは、会場と会場だけではなく、展覧会と市民など、様々な人の営みを結んでいます。
 
高橋佳江《prezentプレゼント2007》
作家と子ども達が古靴下で作ったお人形。
小学校の温室は「ぬくぬく優しさ」で満開です。
 
カフェ庭園(公民館2階)
手前)藤江竜太郎《Blue Bird Cafe》
淀川テクニックの《葦》がお洒落でゴージャス!?
 
しばたゆり《マテリアル・カラーズNo.47さくら》
カフェから見える桜を使って描いています。
 
淺井裕介《Rope Drawing》
ロープ、木の枝など、こどもたちと仲良しな遊具を使った作品。
これは私のお気に入り!
 
丸橋光生《ビッグ・パンツ・リズム》
あはは!楽しい!
 
旧日銀展覧会会場
 
■ サテライト企画:「金庫室のゲルトシャイサー」展 於:旧日本銀行広島支店

 会田誠の「新宿城」、照屋勇賢「結い You-T」、柳幸典「Article9」で始まるこの会場では、強烈なストーリーが用意されている。
 「ゲルトシャイサー」というのは、、ミヒャエル・エンデ『ハーメルンの死の舞踏』に登場する怪物(大王ネズミ)である。
その大王ネズミは、お金を排泄物のようにお尻からひねり出すのだが、同時に大量のネズミを生み出す。
支配層は、それを隠匿しながら富んでいくわけだが、民衆は大量のネズミの害(死)に怯える。

 あいだだいや《もし100万円を素材とした芸術作品があったなら果たしてそれはどれだけの価値があるのだろうか》
 柳幸典+棚次理+大橋実咲《旧日本銀行広島支店 藝術家株券》
元をたどればどちらも紙。印刷という儀式で世に出ていく。前者は、ディスプレイされ商品のよう。後者は購入可能だが、金利はつかない。しかし、柳幸典制作+地域の芸術振興賛助という付加価値を持ち、大変魅力的である。
 豊嶋康子《口座開設》《振り込み》〜人間一人一人の営みや内面はどこまで尊重されているのか・・。
 そして、金庫からのお金を出し入れに使用されていたアメリカ製の小さな扉の中を占拠しているのは、
トム・フリードマンの《True love(butterfly on shit)》。(糞のような形をしている)
私たちは富だと信じてこの糞と、平和・環境・心を交換し続けてきたのか?それはこれからも・・?
私たちの手には、大王ネズミへの貢物など何も残っていない。
 確か、ハーメルンの昔話では、笛吹き男が未来のない街から、未来ある子どもたちを連れ去ってしまったのでしたよね。

 「今、君達は絶壁に立っているんだよ」
原爆にもビクつかなかったという堅固で秘密めいた建物の中には、
そういう声が聞こえてくるような、現実を超えた「現実」があった。

□関連企画:「どうする?広島の折鶴」展

 多色・大量の折鶴が展示された会場では、人々の平和への祈り・・原爆への怨念めいたものに圧倒される。
紙は、「気持ちを込めて折る」という儀式で、特別な紙となる。
この「願う」気持ちはお金では買えないものである。もちろん、「命」も。

 さて、各会場が「ゴミ・地域・銀行」というテーマで徹底的に拘った結果、「私達が見逃している物の価値、人と人・人と事・人と地域が繋がることの価値、お金の価値」といったものを、対照的に映しだしている。
きっと市民は、お金を基準としない「価値」に気づき、多様な現代アートの表現に興味を持ってくれたであろう。

感想をまとめると、結局のところ・・
この壮大なプロジェクトをやってのけた総合ディレクターの柳幸典は、怪物(←良い意味で)だと思いましたよ。
私は。
 
 
旧中工場アートプロジェクト2007

広島市中区吉島旧中工場、その周辺地域
旧日本銀行広島支店

2007年4月1日〜4月22日
 
著者のプロフィールや、近況など。

友利香(ともとしかおり)

この連休に行きたいところは、
映画やドラマのロケ地で有名な下関市角島(つのしま)。
角島の朝夕の風景は最高なんだって!



 

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