topreviews[深堀隆介展“てぐせ養魚場”/愛知]
深堀隆介展“てぐせ養魚場”
金魚に描かされる絵師
TEXT 田中由紀子

《ココナッツ出目サブレ》樹脂に着彩 21.5×7.0×3.0cm 2007年[+zoom]


 私は金魚があまり好きではない。それは金魚が自然物のようでいて、じつは人間に作り出されたものだからだ。腫瘍のようなこぶを頭部につけていたり、ブクブクした水疱をふわふわさせて泳ぐさまは、ユニークでおもしろい反面グロテスクでもある。おそらく愛好家の間では奇形なほど人気が高く、高値で取引されるのだろう。人間の欲望を満たすために品種改良を重ねられ、これほど歪められてきた生物はほかにいないのではないか。金魚のかわいらしくそしてグロテスクなさまを見ていると、私たち人間のエゴを見せつけられるような気がして、嫌な気持ちになってくる。
 だから深堀の作品を最初に見たとき、先に述べたような金魚に対する固定観念を忘れ、引き込まれるように桶の中で泳ぐ金魚に見入ってしまったのは、自分でも意外だった。初めて見たとき「本物?」と思う人も少なくないという深堀が描く金魚。桶や枡の中で泳ぐそれらは一見フィギュアのようだが立体ではなく、樹脂に描かれた平面だ。そして金魚が描かれることにより、樹脂は容器に入った水と化す。立体の樹脂に描かれた平面の金魚は、二次元でも三次元でもない、そのきわを自由に行き来しているようである。原種のフナから見ればフェイクである金魚を、二次元と三次元のきわに描くフェイク、さらに枡や柄杓、ましてやココナッツサブレの容器の中といった本来はありえない空間に金魚を泳がせるというフェイク。思わず作品に引き込まれてしまったのは、こうしたフェイクの積み重ねが、金魚のグロテスクさを緩和し、逆にフェイクさを楽しませてくれたからかもしれない。
 今回の個展で印象に残ったのは、金魚をクレヨンで描いたドローイングだった。というのは、それらは子供が描いた絵のようで、流れるような筆致で繊細に描く、画家というより絵師と呼ぶにふさわしい深堀の作品とは結びつかなかったからだ。それらはユニークでかわいらしいものの、よくよく見るとグロテスクでもあり、彼が美しくかわいいものとして金魚を捉えているばかりではないことを巧みに伝えていた。そしてドローイングを見た後、もう一度樹脂に描かれた金魚を見てみると、流麗に描かれた金魚の頭部にブクブクした水疱が描かれているのに気がついた。深堀が描いているのは、人間のエゴの産物という側面を持ちながらも、その美しさやかわいらしさで私たちを魅了してやまない金魚なのだ。
 なぜ金魚を描くかについて、「自分が金魚を描いているつもりでも、じつは金魚に描かされている気がする」と語った深堀。「人間が品種改良を重ねるのも、金魚が人間にかわいいと思わせて品種改良をさせることにより、種を保存させているのかも。操作されているふりをして、じつは人間を操作しているのは金魚の方なのかもしれない」と。この言葉に、自然や生物に対してもっと謙虚であらねばとハッとさせられた。

《泉》変形パネルにアクリル、雲母 450.0×150.0cm 2007年(部分)[+zoom]

《黒泉》変形パネルにアクリル、雲母 38.0×60.5cm 2007年[+zoom]

会場風景

会場風景[+zoom]

《ドローイング》クレヨン 38.0×60.5cm(額寸) 2007年[+zoom]

右から《デメ1世》布に染料 65.0×80.0cm 2006年、《デメ2世》布に染料 14.0×18.0cm 2006年、《デメ3世》布に染料 65.0×80.0cm 2006年



深堀隆介展“てぐせ養魚場”

ギャラリーIDF(愛知県名古屋市)
2007年2月11日〜2月25日
 
著者のプロフィールや、近況など。

田中由紀子(たなかゆきこ)

編集関係の仕事をしながらコツコツ評論などを書いてます。
http://www.geocities.jp/a_rtholic/




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