topreviews[中ザワヒデキ「脳波ドローイング」ライブ・パフォーマンス/東京都]
中ザワヒデキ「脳波ドローイング」ライブ・パフォーマンス

「脳波ドローイング」手記
TEXT 藤田千彩

去る11月4日、5日に、東京・府中市美術館で、中ザワヒデキ「脳波ドローイング」ライブパフォーマンスが行われた。
PEELER11月号で中ザワヒデキインタビューを行った藤田千彩による手記を、ここに掲載する。
ブログ「脳波日記」と併せて読まれることをおすすめする)

<はじめに>
美術家・中ザワヒデキ(以下中ザワ)と私は、6年前に東京神田神保町の美学校という場所で出会った。
当時中ザワは「方法」の活動を始めたばかりだった。
「方法」の単調かつ押し付けがましい理論はこっけいなものとして私は感じ、都内で行われた方法の展示、イベントをほとんど見てきた。ちなみに2004年に「方法」は活動を終えている。
たまたまこの夏中ザワと接触する機会があり、「方法を終えて何をするのか」という問いに、「これ」と見せてくれたチラシが「脳波ドローイング」だった。
そのときは他人事だった。
私は中学のとき脳波を取ったことがあるくらいで、普段の生活で全く関係ないものとして話を聞いていた。
しかし数日後、中ザワから来た連絡は「助手として手伝って欲しい」というものだった。
今まで数人のアーティストの制作手伝いはしているし、中ザワが現在執筆中の「現代美術史日本篇」が東京都現代美術館で展示されるときにも手伝っている。
今回の中ザワからの連絡は「脳波を取る」ことを目的としており、医学的知識がゼロの私は好奇心だけで引き受けた。

A
B
C
 
A.講習会で使ったテキスト/B.講習会で使ったマネキン/C.講習会でもらった修了証
<脳波計講習会>
9月末、私は大江戸線の駅にいた。
中ザワと一緒に、日本で唯一の脳波計製造メーカーである日本光電工業株式会社の「脳波計講習会」に行くためだった。
不安、だった。
中ザワは医師免許を持つが、私は医学の知識はみじんもない。
講習会でも周りはほとんど現場で働く技師の方ばかりで、遠くは九州からこの講習を受けに来ているくらい、実践的な講習会だった。
脳のしくみ、脳波の波形の読み取り方、マネキンを使って脳波計の付け方、グループになって交代しながら脳波計を付けるなど、知らないからこそ夢中になることができた。

D
E
F
 
D.修行中の中ザワの脳波形/E.電極とペースト/F.修行に励む中ザワ
<2週間の修行>
美術館に脳波計が搬入されたのは、オープニングの前日(10月19日)。
ちょうどライブ・パフォーマンスまで2週間。
たかが2週間、されど2週間、ということで、計画を立てて実行することにした。
そのためには美術館へ毎日来て練習することが必要だとわかった。
中ザワの頭で脳波を測ることができるか。
決まった位置に電極を取り付けられるか。
脳波計の扱いができるか。
ずぼらな私には「きちんと」というコトバがキーワードのように感じた。
中ザワも体調やちょっとしたことで変化する脳波を見つめては、どうするべきか考えているようだった。
実際のところ、中ザワの脳波は微動のような波形が絶えず刻まれている。
“なにも考えない”ことが出来にくいタイプのようで、少しでも何か考える=脳が動いているのだった。
もはやそれはクセでもあり、意識をすればするほど脳波は動く。
その動きをどう制御するかということが、様々な波形のドローイングという形になった。
毎日朝、電極を取り付けて計測、お昼を食べるためにそれを取り、午後また電極を取
り付けて計測、お茶をするためにそれを取り、夕方再度電極を取り付けて計測。開館の10時(あるいは日によっては9時)から、閉館の5時(あるいは日によっては
それ以降)まで、修行の日々が繰り返された。

G
 
H
 
I
 
G.話し合う中ザワと私/H.CAL波形/I.脳波ドローイング用の藤田千彩
<本番に向けて>
たんに脳波計が描いたものを展示する、という趣旨であれば、別に問題はなかったのだろうが、パフォーマンスとして見せるためにクリアにすべきことはいくつもあった。
脳波計は脳波以外のもの(身体を動かしただけで伝わる振動のようなもの、電気などから発生する余計な波など)を拾ってしまうため、それをなくすために中ザワはベッド上で安静にしなくてはならない。
そのためにどの位置からでもベッドが見えるように調整に苦労した。
パフォーマンスとして見せる(見える)ために、言葉選びにも苦労した。
脳波計がきちんと頭と接着しているか調べるための「インピーダンスチェック」や、計測をしていないときに脳波計が書き出す波形「CAL」をどう呼ぶか、などである。
そのためにどういう手順でパフォーマンスを進めるべきかも悩んだ。
出来上がったドローイングにサインを入れてもらうこととし、立会人選出も必要だった。
そういえば以前私は「方法」のパフォーマンスを見たとき、中ザワに「衣装など見かけもパフォーマンスには重要ですか」と問うた。
中ザワは「もちろん」と答え、パフォーマンスは儀式のようなものと言った。
今回そのために、明らかに普段と異なる私を演じるためにおかっぱ、黒いふちのメガネを掛けた。
そして儀式をもっと儀式にするために、外に出して見せるとき使う白い手袋を急遽用意したり、緊張感のある雰囲気を作り出すことにした。

J
 
K
 
L
 
J.本番前/K.本番中(公開制作室内)/L.本番中(公開制作室外)
<本番>
「脳波ドローイング第1番をはじめます。」
練習でも何度も言っていた、その言葉。
実際大人数の前で言うとなると、緊張するものである。
パフォーマンスは2日に亘り4回、合計20回のドローイングが行われた。
どの回も個性あるドローイングが作られた。
実際のパフォーマンスの流れは以下の通り。
インピーダンスチェックを行う

試し描き(CAL波形)を出す

中ザワに歯をかみ合わせてもらい、脳波計と中ザワがつながっていることを確認

「これから脳波ドローイング第●番をはじめます」
ドローイング開始
なおドローイング時間は1分である

ペン先チェック(CAL波形)にする

ドローイングされた用紙に日時などを書き込む

アシストに手渡し
(以下アシストが席に戻るまでに次のドローイング用紙にタイトルなどを書き込む)

アシストが立会人3人の署名をもらう

署名入り用紙を公開展示室外にいる観客に向けて持ち上げて見せる

見せて終わったらアシストは室内に戻り保管棚へ入れる


<いま思うこと>
ライブ・パフォーマンスは実際現場にいないと楽しむことができない作品鑑賞だ。
脳波ドローイングの場合、脳波ドローイング作品が実際残っているけれど、あの緊張感と波形に一喜一憂する観客のさまは再現できない。
「山が出来るたびに『おおっ』って声に出てしまった」と数人から聞いた。
私もその声はガラス越しに聞こえ、ライブというリアルで貴重な体験が心地よかった。
もしチャンスがあったらまたやってみたい。
そんな気持ちになる手伝いをした、芸術の秋だった。

中ザワヒデキ「脳波ドローイング」ライブ・パフォーマンス

府中市美術館公開制作室
2006年11月4日・5日

公開制作36 中ザワヒデキ「脳波ドローイング」
2006年10月21日〜12月24日
 
著者プロフィールや、近況など。

藤田千彩(ふじたちさい)

1974年岡山県生まれ。
大学卒業後、某通信会社に勤務、社内報などを手がける。
美学校トンチキアートクラス修了。
現在、「ぴあ」「週刊SPA!」などでアートに関する文章を執筆中。
http://chisai-web.hp.infoseek.co.jp/

 


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